ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【一般相対性理論】時空の静的性とバーコフの定理

バーコフの定理という時空の時間に関する対称性について軽くまとめてみます.

シュワルツシュルト外部解

シュワルツシュルト外部解は,シュワルツシュルト座標で

ds^2=-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)dt^2+\left(1-\frac{r_g}{r}\right)^{-1}dr^2+r^2(d\theta^2+d\phi^2)

と書けますね(r_g=2GM).これは真空T_{\mu\nu}=0_{\mu\nu}における解なので,実際に物質が分布している部分は記述しておらず,外部解や真空解と言われます.
逆に,物質が分布している部分の時空を記述するものは,内部解と言われます.

バーコフの定理の主張は,球対称解は静的であり,かつそれはシュワルツシュルト解のみであるというものです.


シュワルツシュルト時空の静的性

座標に依存せずに対称性をはかるためにキリングベクトルを用いて静的とはどのように定義されるのかを確認しておきます.まず超曲面を用意して,これを複製したものを積み重ねていき,その超曲面に直交するように回転率のないコングルエンスを通すとします(超曲面直交⇔回転率なしです).そうすると,そのコングエンスに伴うベクトル場は超曲面の法ベクトル場であるわけですが,その積分曲線をたどっても超曲面は一定であるわけですからキリングベクトルになっています.そのようなキリングベクトルが時間的である部分があれば,あるいは漸近的にでも時間的であればその時間的である領域における観測者からするとこのように作られた時空は静的であると考えられます.時間的でない領域における観測者からすれば,静的ではないのでしょう(このあたりを議論している文献が見当たらないので自信がなく個人的な見解になりますが...).逆に静的な時空とは少なくとも漸近的にでも時間的であるような完備なキリングベクトルが存在して,それが超曲面直交であるような時空と定義します.ちなみに,そのようなキリングベクトルが存在はするが超曲面直交でないときには定常な時空といいます.


静的とは何かがはっきりとしたところで,準備としてシュワルツシュルト時空が静的であることを確かめましょう.これを確かめればあとは球対称解がシュワルツシュルト時空のみであることが示されればよいわけです.ベクトル場\xi:=\partial_0=\xi^\mu \partial_\muは完備なキリングベクトルになっていてr>r_gで時間的です.これは簡単な計算で確認ができて,

\mathscr{L}_{\xi}g_{\mu\nu}=\xi^\lambda \partial_\lambda g_{\mu\nu}+g_{\lambda\nu}\partial_\mu \xi^\lambda + g_{\mu\lambda}\partial_\nu \xi^\lambda
=\xi^0 \partial_0 g_{\mu\nu}+g_{0\nu}\partial_\mu \xi^0 + g_{\mu0}\partial_\nu \xi^0
=\partial_0 g_{\mu\nu}=\frac{\partial g_{\mu\nu}}{\partial t}=0_{\mu\nu}

とリー微分が0,すなわちキリングベクトルです.\xi^2=\xi_\mu \xi^\mu=-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)なのでr>r_gで時間的です.また都合よく\xi=\partial/\partial tというのはまさにt一定面の法ベクトルであるので,その面に直交しています(このようにかけるtはキリングパラメータといいます).よってシュワルツシュルト時空は静的な時空といえます.


球対称時空とシュワルツシュルト解の一意性

一意性自体は,標準的なテキストにあるような計算過程を追ってシュワルツシュルト解がただひとつでているということが証明になっているので割愛します.
ひとつコメントするとするなら,g_{tt}=-\exp(\nu(t,r))g_{rr}=\exp(\lambda(t,r))と置いて計算し,そのまま終了しているテキストが多いのが気にはなりました.
計算の簡略化と-g_{tt},g_{rr}>0を期待してそのように置くこと自体は良いアイデアだとは思うのですが,r < r_gも考えたいのであれば,g_{tt}=\exp(\nu(t,r))g_{rr}=-\exp(\lambda(t,r))と置きなおしてもう一度計算を追うか一言注意はしておいたほうがいいのかなと思っています(計算内容自体は符号が変わるだけなのですが).

この記事では,その計算は割愛するかわりにテキストではじめに仮定される,球対称性というものについて少しだけ掘り下げたいと思います.

おそらく量子力学でよく行う計算なので省きますが,角運動量演算子

l_x=-z\frac{\partial}{\partial y}+y\frac{\partial}{\partial z}=-\cos\phi\frac{\partial}{\partial \theta}+\cot\theta\sin\theta\frac{\partial}{\partial \phi}
l_y=z\frac{\partial}{\partial x}-x\frac{\partial}{\partial z}=\sin\phi\frac{\partial}{\partial \theta}+\cot\theta\cos\phi\frac{\partial}{\partial \phi}
l_z=-y\frac{\partial}{\partial x}+x\frac{\partial}{\partial y}=\frac{\partial}{\partial \phi}

SO(3)の生成子で,2次元球面S^2のキリングベクトル\xiが3つの任意パラメータを\epsilon_i(i=x,y,z)とし\xi=\sum_i\epsilon_i l_iになります(難しくはないのでS^2に対するキリング方程式を立てて求めてみるといい計算練習になります).

4次元時空が球対称性をもつというのは4次元時空が上にあげたキリングベクトルをもつということです.\theta\phi以外の座標trを足して

\xi=\xi^\mu\partial_\mu
=\sum_i\epsilon_i l_i
=\left(-\epsilon_x\cos\phi+\epsilon_y\sin\phi\right)\frac{\partial}{\partial \theta}+\left(\epsilon_x\cot\theta\sin\phi+\epsilon_y\cot\theta\cos\phi+\epsilon_z\right)\frac{\partial}{\partial \phi}

で,成分が

\xi^t=\xi^r=0
\xi^\theta=-\epsilon_x\cos\phi+\epsilon_y\sin\phi
\xi^\phi=\epsilon_x\cot\theta\sin\phi+\epsilon_y\cot\theta\cos\phi+\epsilon_z

であるということです.さてやりたいことはこれをキリングベクトルにもつような時空の計量がどのように制限されるかということです.単にキリング方程式に突っ込めばよいです.

\mathscr{L}_{\xi}g_{\mu\nu}=\partial_\lambda g_{\mu\nu}\xi^\lambda+\partial_\mu\xi^\lambda g_{\lambda\nu}+\partial_\nu\xi^\lambda g_{\mu\lambda}
=\partial_\theta g_{\mu\nu}\xi^\theta+\partial_\phi g_{\mu\nu}\xi^\phi+\partial_\mu\xi^\theta g_{\theta\nu}+\partial_\mu\xi^\phi g_{\phi\nu}+\partial_\nu\xi^\theta g_{\mu\theta}+\partial_\nu\xi^\phi g_{\mu\phi}
=0



\mu=\nu=t,rの方程式より得られるのは

\partial_\theta g_{tt}\xi^\theta+\partial_\phi g_{tt}\xi^\phi=0
\partial_\theta g_{tr}\xi^\theta+\partial_\phi g_{tr}\xi^\phi=0
\partial_\theta g_{rr}\xi^\theta+\partial_\phi g_{rr}\xi^\phi=0

ということはすぐにわかります.代表してttのみを考えればよいですね.任意パラメータ\epsilon_zにかかるのは\partial_\phi g_{tt}のみなので

\partial_\phi g_{tt}=0

がいえます.すなわち,g_{tt}\phiに依らないことがわかりました.このことからキリング方程式はさらに,

\partial_\theta g_{tt}\xi^\theta=0

となり,\phiのときとほぼ同様にしてただちにg_{tt}\thetaにも依らないということがわかります.キリング方程式の形は同じなので,g_{tr}g_{rr}についても同様のことが言えます.


\mu=t\nu=\theta(代表してt)の方程式より得られるのは

\partial_\theta g_{t\theta}\xi^\theta+\partial_\phi g_{t\theta}\xi^\phi+\partial_\theta \xi^\phi g_{t\phi}=0

同様の論法で,\epsilon_zにかかるのは\partial_\phi g_{t\theta}だけであり,これが0なのでg_{t\theta}=0\phiに依らず,

\partial_\theta g_{t\theta}\xi^\theta+\partial_\theta \xi^\phi g_{t\phi}=0

これに対する\epsilon_x\epsilon_yの係数からそれぞれ次の式

\partial_\theta g_{t\theta}=-\csc^2\theta\tan\phi g_{t\phi}
\partial_\theta g_{t\theta}=\csc^2\theta\cot\phi g_{t\phi}

が得られます.これより-\tan\phi g_{t\phi}=\cot\phi g_{t\phi}となりますが,これが恒等的に成り立つためにはg_{t\phi}=0でなければなりません.これをキリング方程式に戻せばg_{t\theta}\thetaにも依らないことがただちにわかります.これはtrに置き換えても同様です.


\mu=t\nu=\phi(代表してt)の方程式より得られるのはg_{t\phi}=0に注意して

\partial_\phi \xi^\theta g_{t\theta}=0

で,\epsilon_xの係数より

\sin\phi g_{t\theta}=0

を得て,恒等的に0となるためにはg_{t\theta}=0となります.


\mu=\theta,\ \phi\nu=\theta,\ \phiのキリング方程式についてはわざわざ調べる必要がありません.もともとこのキリングベクトルは2次元球面のキリングベクトルであり,高次元の座標と無関係な計量成分であるのでS^2に共形であり,計量はもとの計量からtrにだけ依った関数倍の自由度しかありません.

まとめると球対称時空の計量は

ds^2=-A(t,r)dt^2+B(t,r)dr^2+2C(t,r)dtdr+D(t,r)(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)

とかけます.これ以降は一般的なテキストに従えばよいはずです(以上は最初に仮定される球対称時空の一般形について丁寧に考察してみたということです).座標変換をしてより簡単な形にしてアインシュタイン方程式に代入していけばシュワルツシュルト解を得られます.


バーコフの定理とニュートン重力

バーコフの定理は,重力源が球対称であれば真空領域は静的であるという主張ですが,これはそこまで驚くべき定理ではなくてニュートン重力や電場等のガウスの法則でも成り立っていることです.球対称性があれば,例えば重力源を球で囲んでガウスの法則を考えれば,重力源や電荷が消失したり生成したりしない限り重力場や電場は静的ですよね.ニュートン重力の場合,球殻な重力源の球殻の内側についてはガウスの法則を考えればわかるように重力が働きません.ということは一般相対性理論でも球殻の内側では重力がない,すなわち平坦時空になっているという予想が立ちます.バーコフの定理より,球殻内部であっても真空であるので,シュワルツシュルト外部解となります.そして積分の定数であるMは内側の質量なので(ガウスの法則のように),今の場合はM=0となります.よって,ds^2=-dt^2+dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)とミンコフスキー時空になります.

【一般相対性理論】四脚場とローレンツ群の表現

スカラー場やスピノル場というのは局所ミンコフスキー空間ローレンツ群の表現を考えることで数学的にとらえることができます.

慣性系の変換

特殊相対性理論の要請としては,ミンコフスキー空間において本義ローレンツ変換*1で物理法則が共変であることです.ローレンツ計量を不変に保つ変換として要求すると,より広くポアンカレ変換

x^\mu\rightarrow x'^\mu=\Lambda^\mu_\nu x^\nu +a^\mu
になりますが,特殊相対性理論の要請としては,ローレンツ変換

x^\mu\rightarrow x'^\mu=\Lambda^\mu_\nu x^\nu
のうち,さらに時間反転をしない\Lambda^0_0 \geqq 1,空間反転をしない\det \Lambda=1ものだけでよいです.これを本義ローレンツ変換SO^+(3,1)といいます(O(3,1)単位元の連結成分がSO^+(3,1)).以後,断りのない限り本義ローレンツ変換のことをローレンツ変換といいます.


四脚場の回転

一般に重力があるような曲がった時空(4次元ローレンツ多様体)\mathcal Mのある点x=x^\mu \partial_\muにおいて,接空間として平坦な局所ミンコフスキー空間T_x(\mathcal M)を考えることができます.T_x(\mathcal M)において,特殊相対性理論を考えることができます.ここで,次のようなものを考えます.

e_a=e^\mu_a \partial_\mu
ただし,\det(e^\mu_a)(>0)\in GL(4)とします.そして,T_x(\mathcal M)のフレームをe_aととらえます.つまり,e^\mu_a\mathcal Mの点xにおける座標基底\partial_\muからT_x(\mathcal M)のフレームへの写像の役割をしています.このフレームが正規直交フレームであると仮定します,すなわちT_x(\mathcal M)の各点で

g(e_a,e_b)=g_{\lambda\kappa}e^\mu_a <\partial_\mu,dx^\lambda>e^\nu_b<\partial_\nu,dx^\kappa>\\
=g_{\mu\nu}e^\mu_a e^\nu_b=\eta_{ab}
を仮定します((擬)リーマン多様体にはいつも正規直交フレームをとることができます).(e^{-1})^a_\mu=:e^a_\muと書くことにして,上の式から逆に

g_{\mu\nu}=e^a_\mu e^b_\nu \eta_{ab}
と表すことができます.この正規直交フレームの双対1-形式の組を

\theta^a:=e^a_\mu dx^\mu
で定められます.よって,\mathcal M上の計量gは点xで,

g(x)=g_{\mu\nu}(x)dx^\mu(x)\otimes dx^\nu(x)=\eta_{ab}\theta^a(x)\otimes \theta^b(x)
と書けます.

ところで,あるg_{\mu\nu}に対して(これを固定して),g_{\mu\nu}(x)=e^a_\mu(x) e^b_\nu(x) \eta_{ab}と書けるような正規直交双対基底は一意ではなく,たくさんあります.xで正規直交双対基底を回転させる自由度を持っています.その回転行列を(\Lambda^a_b)\in SO(3,1)とし,

\theta^a(x)\rightarrow \theta'^a(x)=\Lambda^a_b \theta^b(x)
という回転で,正規直交基底は

e_a(x)\rightarrow e'_a(x)=(\Lambda^{-1})^b_a e_b(x)
と逆回転され,四脚場は

e^a_\mu(x)\rightarrow e'^a_\mu(x)=\Lambda^a_b e^b_\mu(x)
と回転します.よって,

g_{\mu\nu}(x)=e^a_\mu(x) e^b_\nu(x) \eta_{ab}\\
=e'^a_\mu(x) e'^b_\nu(x) \eta_{ab}
がわかります.(簡単にいえば,添字\mu,\nu,\cdotsは局所回転においてスカラーです)


2種類のローレンツ変換

座標変換としてのローレンツ変換\Lambda^\mu_\nuと四脚場の回転としてのローレンツ変換\Lambda^a_bは違うんですが,この2つを対応付けたいですよね.ちょっと僕にはわかりません.誰かご教示願います.

とはいえ,重力のある一般に曲がった時空を扱う限り,四脚場の回転としてのローレンツ変換を考えます.そしてこの群の表現を求めたいわけですが,どちらの意味にしても群としては同じなので数学的なところは変わりません.


無限小ローレンツ変換

無限小ローレンツ変換は微小パラメータ\epsilon^a_bとして

\Lambda^a_b=\delta^a_b+\epsilon^a_b
とかけます.SO(3,1)はミンコスキー計量を保ち,

 \Lambda^a_c \eta_{ab} \Lambda^b_d=\eta_{cd}
となるので,

\epsilon_{ab}=-\epsilon_{ba}
と反対称性があることがわかります.つまり,微小パラメータは6個が独立です.


交換関係と生成子

無限小ローレンツ変換N次表現行列を

D(\Lambda)^A_B=D(\delta+\epsilon)^A_B\\
=\delta^A_B-\frac i2\epsilon^{ab}(M_{ab})^A_B
とします(iや2などの因子は後の便利のためです).簡単のために,N=4のときのことを考えてみると,

\epsilon^a_b=-\frac i2\epsilon^{cd}(M_{cd})^a_b
とかけるわけですから,

(M_{cd})^a_b=i(\delta^a_c \eta_{db}-\delta^a_d \eta_{cb})
と書けます.これを用いて,以下のような交換関係を導くことができます.

[M_{ab},M_{cd}]=-i(\eta_{ac}M_{bd}-\eta_{bc}M_{ad}+\eta_{bd}M_{ac}-\eta_{ad}M_{bc})
交換関係は表現の仕方に依らないので,この関係が一般的に成り立ちます(一般の表現でも表現の性質を使えば示せますが結構計算が重たいです).このM_{ab}ローレンツ群の生成子になっています.これからしたいことは,まずこの既約表現を求めることです.


既約表現

このM_{ab}は座標変換としてのローレンツ変換の方での空間回転L_i(i=1,2,3)とローレンツブーストK_i(i=1,2,3)に分けることができます.これを次のように定義すると,うまいことそれぞれが表す生成子になります.

L_i:=\frac12\epsilon_{ijk}M^{jk}\\
K_i:=L_{i0}
\epsilon_{ijk}はレビ-チビタの完全反対称テンソルです. 具体的にこれを計算してみると回転やブーストの生成を表すエルミート演算子であることがわかります.またこれらは次の交換関係を満たします.

\displaystyle [L_i,L_j]=\sum_k i\epsilon_{ijk}L_k\\
\displaystyle [L_i,K_j]=\sum_k i\epsilon_{ijk}K_k\\
\displaystyle [K_i,K_j]=-\sum_k i\epsilon_{ijk}L_k
ここで,

J_i^\pm:=\frac12(L_i\mp iK_i)
とおくと,交換関係は

\displaystyle [J_i^\pm,J_j^\pm]=\sum_k i\epsilon_{ijk}J_k^\pm\\
[J_i^+,J_i^-]=0
となります.これはJ_i^+J_i^-がそれぞれが独立に角運動量代数,すなわちSO(3)(SU(2))のリー代数\mathfrak{so}(3)(\mathfrak{su}(2))と一致しています.

これから,角運動量のときと同様に,そこから言葉を借りて「方位量子数」j^+,j^-=0,\frac12,1,\frac32,\cdotsとして「磁気量子数」m^+,m^-はそれぞれ2j^++1,2j^-+1個あります.

この独立な角運動量代数の生成子の直積表現が一般の表現を与えます.これを(j^+,j^-)表現D^{j^+j^-}といいます.具体的に表現を考えていけば,接ミンコフスキー空間上のスカラーやスピノル,ベクトルなどの場が考えられます.これはまたいつか記事にしたいと思います.座標変換としてのローレンツ変換を考えても同様です.また曲がった時空のゲージ理論にもつながります.

参考文献

中原幹夫 著『理論物理学のための幾何学トポロジーⅠ[原著第2版]』2018 日本評論社
http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/~kazama/QFT/qft3slide.pdf

*1:正規ローレンツ変換とも言います.

【電磁気学】相反定理・分極の例題

砂川理論電磁気学の問題を解いてみました.今回は参考文献の第4章の問題(12)と(14)です*1

相反定理

相反定理というのは導体系の静電場で,方程式

\displaystyle \sum_{k} Q_k \phi_k'=\sum_{k} Q_k' \phi_k
が成り立つことです.詳細は参考文献p.100あたりを参照してください.

相反定理の例題

「半径aの3個の導体球1,2,3を,中心距離がr_1r_2(r_1,r_2\gg a)となるように一直線上にならべて,中央の球2にだけ電荷Qをあたえる.次に,2を1に結び,その接続を断ったあとで,2を3にむすぶとき,3のえた電荷量を求めよ.」(参考文献p.125 第4章 問題(12))

相反定理をぜひ使いたいところですが,このままでは電位や電荷の情報不足すぎます.そこで,電位などを計算してみます.

厳密にやるには,鏡像法で電位などは求まるのですが,今回は簡単のため次の論法でいきます.

r_1,r_2>>aなので,お互いがお互いを点電荷とみなせてクーロンポテンシャルで電位を計算すればよい,という方法をとります.そうするとかなり簡単になります.

相反定理を使いやすくするために,電荷と電位の表を作ってみます.

導体球1 導体球2 導体球3
状態1 0,\frac{Q}{4\pi\epsilon r_1} Q,\frac{Q}{4\pi\epsilon a} 0,\frac{Q}{4\pi\epsilon r_2}
状態2 \frac{Q}{2},\phi \frac{Q}{2},\phi 0,\frac{Q/2}{4\pi\epsilon}(\frac{1}{r_1+r_2}+\frac{1}{r_2})
状態3 \frac{Q}{2},\phi' \frac{Q}{2}-q,\phi'' q,\phi''

となります.

状態2では導体球1,2のどちらにとっても導体球3は全電荷0の点電荷としてみなせるので,導体球1,2に対称性が生じて

\displaystyle \frac{Q}{2}
電荷を導体球1は得ます(当然導体球2もこの電荷になる).qが最終的に求めたいものです.この表から相反定理を使ってみてください.

この表から立てられる1次方程式は状態1-2,2-3,3-1の3つです.一方,未知数はq,\phi,\phi',\phi''の4つです.これではどう頑張っても解けませんね.

ということで,自分で勝手に別の状態をつくってしまいます.値がわかるものであり,既知のパラメータを含むものがよいので,それぞれに電荷Qを与えた状態を考えてみましょう.これもクーロンの法則で簡単に電位は計算できます.\frac{1}{a}\gg \frac{1}{r_1},\frac{1}{r_2}を利用するととってもきれいになって,

導体球1 導体球2 導体球3
状態4 Q,\frac{Q}{4\pi\epsilon a} Q,\frac{Q}{4\pi\epsilon a} Q,\frac{Q}{4\pi\epsilon a}

になります.

未知数は増えていません.しかし,方程式は3つ増えました.未知数に対して方程式が多いので解が存在しない可能性もあるので,すべての方程式をちゃんと満たしているかチェックする必要があります.さきほどの近似\frac{1}{a}\gg \frac{1}{r_1},\frac{1}{r_2}をちゃんと使えば満たしています.

結局答えはシンプルに

\displaystyle q=\frac{Q}{4}
になります.ポイントは自分で勝手に考えやすい状態を設定しちゃうということですね.

分極

外部電場が十分につよく,通常の物質であるとすると,分極ベクトル\boldsymbol P,分極電荷\rho_dにはガウスの法則

{}-{\rm div}\boldsymbol P = \rho_d
が成り立ちます.

電束密度\boldsymbol D

\boldsymbol D =\epsilon \boldsymbol E = \epsilon_0 \boldsymbol E+\boldsymbol P
の関係があります.この電束密度と真電荷に対してガウスの法則が成り立ちます.すなわち,

{\rm div}\boldsymbol D = \rho_e
です.

分極の問題

「真空中にQなる電荷をもった導体があったとする.この導体による静電場の二つの等電位面\phi_1\phi_2のあいだの空間を均質誘電体でみたすときのエネルギーの減少量を求めよ.」(参考文献p.125 第4章 問題(14))

差し込む均質誘電体の比誘電率\epsilon^\astとします.遠隔作用的立場で,静電場によるエネルギーW_e

\displaystyle W_e=\frac{1}{2}\int_V \rho(\boldsymbol x)\phi(\boldsymbol x)d^3x
になります.最初のエネルギーから誘電体をみたしたあとのエネルギーを素直に引きます.導体の電位を\phi_0として,分極電荷qqQ>0)とします.

\displaystyle W_e-W_e'=\left(\frac{1}{2}Q\phi_0\right)-\left(\frac{1}{2}Q\phi_0+\frac{1}{2}(-q)\phi_1+\frac{1}{2}q\phi_2\right)\\
\displaystyle =\frac{1}{2}q(\phi_1-\phi_2)
結局,分極電荷qを求めればいいんです.

普通のガウスの法則を\phi_1\phi_2の等電位面の間の空間を境界面に持つような閉領域Vに対して積分して適用すると,

\displaystyle \epsilon_0 \oint_{\partial V} \boldsymbol E\cdot \boldsymbol n dS=Q-q\\
\displaystyle \epsilon_0(\epsilon^\ast -1) \oint_{\partial V} \boldsymbol E\cdot \boldsymbol n dS=(\epsilon^\ast -1)(Q-q)
ここで,
\boldsymbol D=\epsilon_0 \epsilon^\ast \boldsymbol E=\epsilon_0 \boldsymbol E + \boldsymbol P
なので
\epsilon_0 (\epsilon^\ast -1)\boldsymbol E=\boldsymbol P
です.また,{}-{\rm div}\boldsymbol P = \rho_dを用いることにより,

q=(\epsilon^\ast -1)(Q-q)
を得ます.よって,

\displaystyle q=\left(1-\frac{1}{\epsilon^\ast}\right)Q
ですので,答えは

\displaystyle \frac{1}{2}\left(1-\frac{1}{\epsilon^\ast}\right)Q(\phi_1-\phi_2)
になるかと思います.

参考文献

砂川重信 著 『理論電磁気学 第3版』 (1999) 紀伊国屋書店

*1:これら2問は最初かなり悩みましたがなんとか解くことができました...一度わかってしまうとなんだそんなことか...ってなりますね

【一般相対性理論】一般座標変換対称性に基づくゲージ論的重力場

この記事は参考文献[1]を大いに参考にしました。重力もゲージ論的に捉えることができて、ゲージ理論を拡張することで考えることができます。ゲージ変換として、一般座標変換で考えたものが重力のゲージ理論になります。(スピノル場はこの方法では扱えません。)

重力とGL(4)対称性

重力場を得るときに特に他と違って特別な点というのが、ゲージ変換が座標の変換によってもたらされることです。\Lambda\in GL(4,\mathbb R)として、

x^\mu\rightarrow x'^\mu(x)=\Lambda^\mu_\nu x^\nu
という座標変換によって、諸量が変分を受けます。電磁場の場合は場の位相変換、つまりe^{i\theta}不定性を利用したゲージ変換でしたが、重力場の場合は、どのような座標系をとっても、真な物理法則は変わらないという不定性を利用したゲージ変換ということになります。では、この一般座標変換でなにが変わるかというと、ゲージ場としてのベクトル場、ゲージ場の強さとしてのテンソル場、ヒッグス場としての複素スカラー場など、これらが各々の変換性に伴って変換するわけです。*1

電磁場との相互作用がある複素スカラー場を例に

具体例がよくわかってないのですが、電磁場との相互作用がある複素スカラー場とかを例にして良いのでしょうか()、複素スカラー場のラグランジアン密度は

\mathcal L(\Phi,D\phi,A,\partial A)=(D_\mu \Phi)^*D^\mu\Phi-m^2\Phi^*\Phi-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}
としてKlein-Gordon方程式が得られます。作用は大域的な座標変換に対する対称性をもちます。

一般座標変換対称性

計算を簡単にするため、無限小変換で考えます。連続的な変換なのであとで積分すれば有限の場合を再現できるので、これでも本質が尽きます。

x^\mu\rightarrow x'^\mu(x)=x^\mu+\epsilon^\mu_\nu x^\nu
というように、16個の連続無限小パラメータ\epsilon^\mu_\nuをとります。すると、

\delta x^\mu=x'^\mu-x^\mu=\epsilon^\mu_\nu x^\nu

\delta g_{\mu\nu}=-\epsilon^\kappa_\mu g_{\mu\lambda}-\epsilon^\kappa_\nu g_{\lambda\nu}\\
\delta dx^\mu =\epsilon^\mu_\nu dx^\nu\\
\delta d^4x = \epsilon^\mu_\mu d^4x\\
\delta \partial_\mu =-\epsilon^\nu_\mu\partial_\nu

\delta \Phi=0

\delta (\partial_\mu\Phi)=(\delta\partial_\mu)\Phi\\
=-\epsilon^\nu_\mu\partial_\nu\Phi

\delta A_\mu=-\epsilon^\nu_\mu A_\nu

\delta (\partial_\mu A_\nu)=-\epsilon^\lambda_\mu \partial_\lambda A_\nu-\epsilon^\lambda_\nu \partial_\mu A_\lambda
です。

局所対称性の回復

ゲージ原理に従って、これを座標に依存した局所的なパラメータ\xiというものに置き換えます。
\epsilon^\mu_\nu\rightarrow \xi^\mu_\nu(x)
とします。ここで、ある関数\xi^\muが存在して、x'^\mu=x^\mu+\xi^\muとかけるとすると、

dx'^\mu=dx^\mu+\xi^\mu_\nu dx^\nu
なので、

\xi^\mu_\nu=\partial_\nu\xi^\mu
が成り立ちます。このような局所的なゲージ変換だと例えば、

\delta (\partial_\mu A_\nu)=-\xi^\lambda_\mu \partial_\lambda A_\nu-\xi^\lambda_\nu \partial_\mu A_\lambda-\partial_\mu\xi^\lambda_\nu A_\lambda\\
=-\partial_\mu \xi^\lambda \partial_\lambda A_\nu-\partial_\nu\xi^\lambda \partial_\mu A_\lambda-\partial_\nu \partial_\mu\xi^\lambda A_\lambda
となります。この第三項は大域的ゲージ変換の場合には出てきませんでした。この項を打ち消して対称性を回復させるように、ゲージ場\Gamma^\lambda_{\mu\nu}を導入するのがゲージ理論の一般的な処方になります。共変微分とゲージ場の変換則は次の形を要請します。

\nabla_\mu A_\nu:=\partial_\mu A_\nu +(\Gamma_\mu A)_\nu,\ (\Gamma_\mu A)_\nu:=\Gamma^\lambda_{\mu\nu} A_\lambda

\delta (\nabla_\mu A_\nu)=-\partial_\mu \xi^\lambda \nabla_\lambda A_\nu-\partial_\nu\xi^\lambda \nabla_\mu A_\lambda

\delta \Gamma^\lambda_{\mu\nu}=\Gamma^\kappa_{\mu\nu}\partial_\kappa\xi^\lambda-\Gamma^\lambda_{\kappa\nu}\partial_\mu\xi^\kappa-\Gamma^\lambda_{\mu\kappa}\partial_\nu\xi^\kappa-\partial_\nu\partial_\mu\xi^\lambda
となりますが(ここの計算は少し大変です)、このゲージ場を対称部分と反対称部分に分解、すなわち

\Gamma^\lambda_{\mu\nu}=\Gamma^\lambda_{(\mu\nu)}+\Gamma^\lambda_{[\mu\nu]}\\
\Gamma^\lambda_{(\mu\nu)}:=\frac12(\Gamma^\lambda_{\mu\nu}+\Gamma^\lambda_{\nu\mu})\\
\Gamma^\lambda_{[\mu\nu]}:=\frac12(\Gamma^\lambda_{\mu\nu}-\Gamma^\lambda_{\nu\mu})
としてみると、

\delta \Gamma^\lambda_{(\mu\nu)}=\Gamma^\kappa_{(\mu\nu)}\partial_\kappa\xi^\lambda-\Gamma^\lambda_{(\kappa\nu)}\partial_\mu\xi^\kappa-\Gamma^\lambda_{(\mu\kappa)}\partial_\nu\xi^\kappa-\partial_\nu\partial_\mu\xi^\lambda\\
\delta \Gamma^\lambda_{[\mu\nu]}=\Gamma^\kappa_{[\mu\nu]}\partial_\kappa\xi^\lambda-\Gamma^\lambda_{[\kappa\nu]}\partial_\mu\xi^\kappa-\Gamma^\lambda_{[\mu\kappa]}\partial_\nu\xi^\kappa
となり、打ち消したい項のためには反対称部分は働かないことがわかります。この役に立たない反対称部分は0として落としてしまいます。つまり、ゲージ場に対称性を要請しても理論として問題がないことがわかります。

\Gamma^\lambda_{\mu\nu}:=\Gamma^\lambda_{(\mu\nu)}
さて、大域的変換では、計量はg_{\mu\nu}={\rm const.}で、\partial_\lambda g_{\mu\nu}=0でした。局所的変換では、\partial_\mu\nabla_\muにおきかえ、g_{\mu\nu}({\rm const.})g_{\mu\nu}(x)に置き換えることが自然であるので、次の計量の保存を要請します。

\nabla_\lambda g_{\mu\nu}(x)=0
ところで、\nabla_\lambda g_{\mu\nu}は未定義でしたが、これは\nabla_\lambda g_{\mu\nu}が共変性を持つように定義します。*2

\nabla_\lambda g_{\mu\nu}\rightarrow\nabla'_\lambda g'_{\mu\nu}=\frac{\partial x^\tau}{\partial x'^\lambda}\frac{\partial x^\kappa}{\partial x'^\mu}\frac{\partial x^\eta}{\partial x'^\nu}\nabla_\lambda g_{\mu\nu}
g_{\mu\nu}の変換性

\delta g_{\mu\nu}=-\xi^\kappa_\mu g_{\mu\lambda}-\xi^\kappa_\nu g_{\lambda\nu}
から、

\nabla_\lambda g_{\mu\nu}:=\partial_\lambda g_{\mu\nu}-\Gamma^\kappa_{(\mu\lambda)}g_{\kappa\nu}-\Gamma^\kappa_{(\lambda\nu)}g_{\mu\kappa}
とすればよいことがわかります。さきほどの要請より、

\Gamma^\lambda_{\mu\nu}=\frac{1}{2}g^{\lambda\kappa}(\partial_\nu g_{\mu\kappa}+\partial_\mu g_{\kappa\nu}-\partial_\kappa g_{\mu\nu})
となることがわかります。これはまさに、(擬)Riemann幾何学のLevi-Civita接続です。ゲージ場の対称部分としてLevi-Civita接続係数が得られます。接続係数は一般座標変換に対して不定性があったので、ゲージ場としての性質が備わっているというのは確かにあっていますゲージ場の一般論から、ゲージ場の強さ*3は、

R^\lambda_{\kappa\mu\nu}=\partial_\mu \Gamma^\lambda_{\kappa\nu}-\partial_\nu \Gamma^\lambda_{\mu\kappa}+ \Gamma^\lambda_{\mu\eta} \Gamma^\eta_{\kappa\nu}- \Gamma^\mu_{\eta\nu} \Gamma^\eta_{\mu\kappa}
となります。これもまさに、(擬)Riemann幾何学のRiemann曲率テンソル成分になっています。このことから、ゲージ場の強さはしばしばゲージ場の曲率とも呼ばれます。重力場の方程式は、この微分幾何学的性質から、スカラー曲率Rを採用します。*4 これは不変なのでもっともらしく、まさにEinstein-Hillbert作用になります。

参考文献

[1]内山龍雄 著 (1987) 『一般ゲージ場論序説』 岩波書店.
[2]R. Utiyama : Prog. Theor. Phys. 72 (1984) 83.

*1:物質場としてのスピノル場はこのGL(4)では考えることができません。もう一つのやり方があって、局所本義ローレンツ変換SO^+(1,3)で考え、四脚場を考え、一般座標へ写像します。このやり方のほうが自然で正当のようですが僕の知識を考え、GL(4)の方にしました。

*2:ゲージ場の一般論では、ゲージ変換が座標変換を伴わないので、共変微分が不変性を持つように定義しました。つまり、共変微分重力場のときのみに限ってその名の通り共変性を持ちますが、重力場以外のときには不変性をもち、このときには「不変微分」と呼ぶべき ものだということだとわかります。しかし慣習ですべて共変微分と呼ぶようになっています。

*3:共変微分の非可換性で定義します。詳しくはこちらの記事fumofumobun.hatenablog.jpを参考にしてください。

*4:重力場以外のゲージ場の例に従った作用ではEinstein方程式はでてこないようです。{}^{[2]}

【場の古典論】ざっくりと標準模型

この記事は参考文献を大いに参考にしました。自然界の力は強い力、電弱力、重力に大別されます。電弱力は対称性の自発的破れというものによって、弱い力と電磁力になります。

物質場とゲージ場とヒッグス場

まず、標準模型では物質を構成する物質場と、これと相互作用をすることによって力を伝えるゲージ場、質量を与えるヒッグス場があります。これらは素粒子を呼ばれますが、場を量子化しなければ粒子という描像は得られないのでいまの古典論の範囲で、場と呼び続けることにします。物質場はさらに陽子や中性子を構成するクォークと電子やニュートリノレプトンに大別され、スピンとしての内部時自由度が2あるスピノル場(つまりスピン量子数が2)で、ゲージ場は強い力の場のグルーオンと弱い力のウィークボソン、電磁力の電磁場(光)に大別され、スピンの自由度が3あるスピン量子数1のベクトル場で、ヒッグス場は物質場やゲージ場に質量を与えるもので、スピンの自由度が0のスピン量子数0の複素スカラー場です。

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標準模型の物質場とゲージ場とヒッグス場

物質場

まず、物質場には3世代あり、各世代では質量のみが異なります。つまりヒッグス場がなければ3世代の区別はつきません。各世代ごとに、「上」と「下」の場があり、クォークであれば第一世代はアップuとダウンdレプトンは電子ニュートリノ\nu_{e^-}と電子e^-の対になっています。また、スピノル場である物質場にはそれぞれにカイラルという自由度が2あり、左巻きLと右巻きRと呼ばれます。そして、クォークにはカラー(色)という自由度が3あり、レプトンにはカラーの自由度がありません。

f:id:fumofumobun:20200422132013p:plain
物質場
例えば、第一世代について、アップu、ダウンd、電子ニュートノ\nu_{e^-}、電子e^-について、^{スピン}物質の種類_{カイラル}^{カラー}という形で区別して列挙すると、^+u_{\rm L}^1,^+u_{\rm L}^2,^+u_{\rm L}^3,^+u_{\rm R}^1,^+u_{\rm R}^2,^+u_{\rm R}^3,^+d_{\rm L}^1,^+d_{\rm L}^2,^+d_{\rm L}^3,^+d_{\rm R}^1,^+d_{\rm R}^2,^+d_{\rm R}^3,^+{\nu_e}_{\rm L}^1,^+{{e^-}}_{\rm L}^1, ^+{{e^-}}_{\rm R}^1,^-u_{\rm L}^1,^-u_{\rm L}^2,^-u_{\rm L}^3,^-u_{\rm R}^1,^-u_{\rm R}^2,^-u_{\rm R}^3,^-d_{\rm L}^1,^-d_{\rm L}^2,^-d_{\rm L}^3,^-d_{\rm R}^1,^-d_{\rm R}^2,^-d_{\rm R}^3,^-{\nu_e}_{\rm L}^1,^-{{e^-}}_{\rm L}^1, ^-{{e^-}}_{\rm R}^1
ただし、右巻きニュートリノ^+{\nu_e}_{\rm R}^1,^-{\nu_e}_{\rm R}^1はまだ観測されていないので含めてはいません。

強い力とSU(3)_C対称性

ゲージ変換として、カラーのSU(3)変換を考えてみます。例えば、クォークはカラーが3自由度あるので、SU(3)_Cの3次元表現すなわち基本表現U_3\in SU(3)を次のように作用させる変換、例えば

u\rightarrow u'=U_3 u=U_3
\left(
\begin{array}{c}
u^1\\
u^2\\
u^3
\end{array}
\right)
レプトンにはカラーの自由度がないので、自明表現1\in SU(1)が作用する変換、例えば

\displaystyle e^-\rightarrow {e^-}'=1e^-=e^-
をします。


強い力のゲージ場すなわちグルーオンは、クォークの場合には

\displaystyle G_\mu =\sum_{a=1}^{3^2-1} G^a_\mu \frac{\lambda^a}{2}
とします。{\lambda^a}/{2}\mathfrak{su}(3)の生成子です。共変微分

\displaystyle \partial_\mu\rightarrow D_\mu=\partial_\mu+ig_3 G_\mu
として、クォークに作用する\partial_\muD_\muに置き換えます。グルーオンの強さを

\displaystyle \mathcal F_{\mu\nu}=\frac{1}{ig_3}[D_\mu,D_\nu ]
とし、これは

\displaystyle \mathcal F_{\mu\nu}\rightarrow \mathcal F'_{\mu\nu}=U_3\mathcal F_{\mu\nu}U_3^{-1}
と変換されます。よって、

\displaystyle {\rm tr}(\mathcal F_{\mu\nu}\mathcal F^{\mu\nu})
は相対論的にもゲージ論的にも不変です。レプトンの場合には、そのようなゲージ場がなくても対称性が保持されるので、このような置き換えは必要ありません。このことは、レプトンには強い力が働かないということを表しています。そして、カイラルはこのようなカラーの変換で独立に変換することがわかっています。強い相互作用がある第一世代に対するラグランジアン密度は次のように表されます。

\displaystyle \mathcal L_1=\sum_{\psi=u,d}\bar{\psi}(i\gamma^\mu (\partial_\mu+ig_3 G_\mu))\psi-\frac{1}{2}{\rm tr}(\mathcal F_{\mu\nu}\mathcal F^{\mu\nu}) +\sum_{\psi=\nu_{e^-},e^-}\bar{\psi}(i\gamma^\mu \partial_\mu)\psi

電弱力とSU(2)_L\times U(1)_Y対称性

ゲージ変換として、左巻きカイラルの上下の対となる物質場のSU(2)変換を考えてみます。例えば、クォークは、SU(2)_Lの2次元表現すなわち基本表現U_2\in SU(2)を次のように、SU(2)_L2重項に作用させる変換、例えば

\left(
\begin{array}{c}
u_{\rm L}\\
d_{\rm L}
\end{array}\right)\rightarrow
\left(
\begin{array}{c}
{u_{\rm L}}'\\
{d_{\rm L}}'
\end{array}\right)=U_2
\left(
\begin{array}{c}
u_{\rm L}\\
d_{\rm L}
\end{array}\right)

\left(
\begin{array}{c}
\nu_{e\rm L}\\
e^-_{\rm L}
\end{array}\right)\rightarrow
\left(
\begin{array}{c}
{\nu_{e\rm L}}'\\
{{e^-}_{\rm L}}'
\end{array}\right)=U_2
\left(
\begin{array}{c}
\nu_{e\rm L}\\
e^-_{\rm L}
\end{array}\right)
をします。右巻きカイラルはこの変換にともなって、SU_L(1)1重項に自明表現1\in SU(1)が作用します、例えば

\displaystyle e^-_{\rm R}\rightarrow {e^-_{\rm R}}'=e^-_{\rm R}
となります。


SU(2)_Lのゲージ場すなわちSU(2)_Lゲージボソンは、クォークの場合には

\displaystyle W_\mu =\sum_{a=1}^{2^2-1} W^a_\mu T \frac{\sigma^a}{2}
とします。{\sigma^a}/{2}\mathfrak{su}(3)の生成子です。共変微分

\displaystyle \partial_\mu\rightarrow D_\mu=\partial_\mu+ig_2 W_\mu
として、SU(2)_L2重項に作用する\partial_\muD_\muに置き換えます。SU(2)_Lゲージボソン強さを

\displaystyle F_{\mu\nu}=\frac{1}{ig_2}[D_\mu,D_\nu]
とします。このSU(2)_L左巻きカイラルは上下2種類の異なる場が交じり合って変換することがわかります、右巻きカイラルは不変であり、このことは右巻きカイラルには電弱力が働かないということを示しています。


電磁場の場合と同様に、すべての物質場は位相変換に対する対称性もあります、たとえばU_1=e^{ig_1\Lambda}\in U(1)

u_L\rightarrow {u_L}'=U_1 u_L
のような変換です。


U(1)_Yゲージボソン

B_\mu
で、共変微分

\displaystyle \partial_\mu\rightarrow D_\mu=\partial_\mu+ig_1 \frac{Y}{2}B_\mu
で、YU(1)_Y電荷(ハイパーチャージ)といい、物質ごとに値が決まっています。

SU(3)_C\times SU(2)_L\times U(1)_Y対称性

上であげたSU(3)_CSU(2)_L\times U(1)_Yをまとめたものが標準模型となります。しかし、このゲージ対称性のもとでは質量項が禁止されています。ヒッグス場\Phiを導入すると、この対称性が自発的に破れて、物質場や一部のゲージ場は質量を獲得するようです。このあたりは勉強不足でまだ全然わかっていません。このときに、SU(2)_L\times U(1)_Y対称性がU(1)_Eという電磁力の対称性にまで落ちます。このような理論を標準模型といいます。標準模型には重力が考えられていません。


参考文献

坂本眞人 (2014) 『場の量子論-不変性と自由場を中心にして-』 裳華房.

【電磁気学】多重極展開

四重極モーメントなどはイメージが難しいと思います.というか僕自身よくわかってなかったです.例題とともに明らかにしていきます.

\newcommand{\bm}{\boldsymbol}

「実際の」双極子

有限の電気双極子は2つの点電荷系とみてクーロンの法則と重ね合わせから静電ポテンシャルが求まります.そこで,この2点電荷が正負が逆で大きさが同じ電荷の対(q,-q)であって,距離を無限小にして微小双極子にすると,静電ポテンシャルを簡単に書くことができます.(あくまで,微小な場合であり,有限な大きさの双極子の作るポテンシャルではないです.)(微小にしていくかわりに遠方のポテンシャルを考えるというのでもよいです.)

微小な極限をとるときには,双極子モーメントベクトルという次の量


\bm p=q\bm x'_1 +(-q)\bm x'_2

を一定にします.\bm x'_1は点電荷1の位置ベクトルです.(notationはある程度察してください.)

計算は省略して,このポテンシャルは次のように書かれます.


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{\bm p\cdot \bm r}{r^3}

「実際の」四重極子

うえの有限の「実際の」双極子をもう一つ考えて.180度回転させて,正方形上に並べたものが有限の「実際の」四重極子になります.これも結構めんどくさいですが,クーロンの法則と重ね合わせによって静電ポテンシャルが厳密に求まります.が,同様に4つの距離を微小にしていくとポテンシャルが簡単な形になります.双極子モーメントベクトルに対応するものが四重極子モーメントテンソルです.それは,今の場合


\displaystyle \bm Q=\left(\bm x'_1\otimes \bm x'_1-\frac{1}{3}{\bm x'_1}^2 \bm E\right)q +\left(\bm x'_2\otimes \bm x'_2-\frac{1}{3}{\bm x'_2}^2 \bm E\right)(-q)+\left(\bm x'_3\otimes \bm x'_3-\frac{1}{3}{\bm x'_3}^2 \bm E\right)q+\left(\bm x'_4\otimes \bm x'_4-\frac{1}{3}{\bm x'_4}^2 \bm E\right)(-q)

です.定義からわかるように\bm Qは対称トレースレステンソルです.(トレースレスとはトレースが0であるということです.)\bm Eは単位テンソルです.

ポテンシャルは


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{Q(\bm r)\cdot \bm r}{r^5}

\bm Q(\bm r)\cdot \bm r{}^t\bm r \bm Q \bm rとも書かれますね.

四重極子だけでなく,八重極子・・・などと無限に続いて考えることができます.

多重極展開

多重極展開というのは,複雑な物体(電荷分布\rho(\bm x))のつくる遠方での静電ポテンシャルを近似する手法です.これらは点電荷,双極子,四重極子,・・・の重ね合わせで近似できます.具体的な細かい計算は教科書は参考書に譲るとして,問題となるのは「じゃあ実際に計算をするうえで,どのくらいの電荷の点電荷,どのくらいの双極子モーメントをもつ”微小な”双極子,どのくらいの四重極子モーメントテンソルをもつ”微小な”四重極子としてみなせるものの重ね合わせなのか」という定量性になってくると思います.点電荷としては,次の量q


\displaystyle q=\int_V \rho(\bm x') d^3 x'

電荷とするようなもので,双極子としては,次のような量\bm p


\displaystyle \bm p=\int_V \bm x' \rho(\bm x') d^3 x'

を双極子モーメントベクトルにもつような双極子で,四重極子としては,次のような量\bm Q


\displaystyle \bm Q=\int_V \left(\bm x'\otimes \bm x'-\frac{1}{3}{\bm x'}^2 \bm E\right)\rho(\bm x') d^3 x'

を四重極モーメントテンソルにもつような四重極子とみなせます.これらを「重ね合わせ」ていくようなものが元の複雑な物体がつくる静電ポテンシャルの(遠方での)近似となります.

例題-四重極子の多重極展開-

こちらがゼミで混乱を招いたものなのですが,さきほどの「実際の四重極子」であって「微小でないもの」のつくる静電ポテンシャルを求めてみます.四重極子の4つの電荷のそれぞれの最も短い間の距離をdとします.また求めたい位置ベクトルの方向と,原点から四重極子の1辺に向かって下した垂線のなす角を\thetaとします.(察してください())


厳密な答えは,クーロンの法則を4回つかってそれを重ね合わせたものになります.しかし,それはおいておいて,今回は遠方での近似ポテンシャルを求めてみます.

「四重極子なので四重極モーメントテンソルを求めればそれが答えになる」という論理では一般には誤りなのです.確かにこれは四重極子(の一種)なのですが,「微小な」四重極子ではなく,有限な四重極子です.ですから次のような論法になります.


この系の4つの電荷
q_1=e,q_2=-e,q_3=e,q_4=-e
とし,その位置ベクトルを
\displaystyle \bm x'_1=\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_2=-\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_3=-\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_4=\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y
とします.これに対して多重極展開を実行します.

電荷の項は


\displaystyle q=\sum_{k=1}^4 q_k\\
=e-e+e-e\\
=0

なので0です.

双極子の項は


\displaystyle \bm p=\sum_{k=1}^4  \bm x'_k q_k\\
=\left(\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y\right)e+\left(-\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y\right)(-e)+\left(-\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y\right)e+\left(\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y\right)(-e)\\
=0

なので0です.

四重極子の項は


\displaystyle \bm Q=\sum_{k=1}^4  \left(\bm x'_k\otimes \bm x'_k-\frac{1}{3}{\bm x'_k}^2 \bm E\right)q_k\\
=d^2e (\bm e_x\otimes\bm e_y+\bm e_y\otimes \bm e_x)

となります.よって,\bm r=r\cos\theta\bm e_x+r\sin\theta\bm e_yなので(数学的に厳密には双対基底で書くべきです)


Q(\bm r)\cdot \bm r=d^2e(r\sin\theta\bm e_x+r\cos\theta\bm e_y)\cdot (r\cos\theta\bm e_x+r\sin\theta\bm e_y)\\
=d^2er^2\sin2\theta

であり,この項のポテンシャルは


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{d^2e\sin2\theta}{r^3}

となります.

しつこいようですが,ではこの問題の四重極子はこのポテンシャルが厳密な答えとなるのでしょうか.なりません.有限な大きさを持っているので,この次に八重極子の項などが続いていきます.答えは,


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{d^2e\sin2\theta}{r^3}+\mathcal O\left((1/r)^4\right)

【場の古典論】一般ゲージ理論

一般ゲージ場論とは、電磁場のゲージ理論などを具体性にとらわれず、より一般的に述べた理論です。

\newcommand{\bm}{\boldsymbol}

ゲージ原理の一般化

電子場と電磁場の相互作用でみたゲージ原理を、任意の物質場とゲージ場に関して一般化してこれを物理の原理とすることを考えてみます。これを原理として現象がうまく説明できればゲージ理論の成功ということになります。ゲージ原理は次のように一般化されます。「N成分の場\phi(x)=(\phi^A(x))(添字Aは様々な種類の場の通し番号で、スピノルやテンソルの添字である)を、n個の連続パラメータ\epsilon^r(r=1,\cdots,n)で定まる線形Lie群Gの元\bm T(\epsilon)\in G\subset GL(N,\mathbb C)による大域一般ゲージ変換

\phi_A(x)\rightarrow \phi'_A(x)=(\bm T(\epsilon)\phi(x))_A=\bm T(\epsilon)_A^B\phi_B(x)
をするとき、\phi(x)の基礎方程式を定める作用が不変すなわち

S:=\int d^4x \mathcal L(\phi,\partial\phi)\rightarrow S'=\int d^4x \mathcal L(\phi',\partial\phi')=S
であるという大域一般ゲージ対称性を備えているとする。\bm T(0)は恒等変換である。連続パラメータ\epsilon^rを時空に依存する関数\xi^r(x)に置き換えた次の局所一般ゲージ変換

\phi_A(x)\rightarrow \phi'_A(x)=(\bm T(\xi(x))\phi(x))_A=\bm T(\xi(x))_A^B\phi_B(x)
をするとき、作用の対称性を回復させるように\mathcal L(\phi,\partial\phi)を修正するべし。」というのがゲージ原理に基づく問題を一般化した、一般ゲージ原理となります。

一般ゲージ場の導入

まず、大域一般ゲージ変換1本目の式の無限小変換で考えます。無限小変換をあとで積分すれば有限変換となるので、1次の精度の無限小変換で本質は尽きます。つまり、

\delta\phi_A(x):=\phi'_A(x)-\phi_A(x)=\epsilon^r (\bm G_r\phi(x))_A=\epsilon^r G_{r,A}^B\phi_B(x)
ただし、

\bm G_r:=\left.\frac{\partial \bm T(\epsilon)}{\partial\epsilon^r}\right|_{\epsilon=0}
であり、これはLie群GのLie代数\mathfrak gの生成元です。すなわち、\forall X\in\mathfrak gにはX=c^r \bm G_rと一意に表されるような係数c^rが存在します。そして、

[\bm G_r,\bm G]=C^t_{rs}\bm G_t
を満たすC^t_{rs}Gの構造定数です。さて、大域一般ゲージ対称性の要請の仮定によって\mathcal L(\phi,\partial\phi)は、

\delta\mathcal L=\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}\delta\phi_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}\delta(\partial_\mu\phi_A)\\
=\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}\epsilon^r (\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}\epsilon^r(\bm G_r\partial_\mu\phi_A)=0
で、微小パラメータの任意性より、

\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A=0
が成り立っています。ここで、局所一般ゲージ変換におきかえると、今度は

\delta\phi_A=\xi^r (\bm G_r\phi)_A
のもとで、

\delta(\partial_\mu\phi_A)=\partial_\mu\phi'_A-\partial_\mu\phi_A\\
=\partial_\mu(\phi_A+\delta\phi_A)-\partial_\mu\phi_A\\
=\partial_\mu(\phi_A+\xi^r (\bm G_r\phi)_A)-\partial_\mu\phi_A\\
=(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A\xi^r+ (\bm G_r\phi)_A\partial_\mu\xi^r
であることに注意して、

\delta\mathcal L=\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}\delta\phi_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}\delta(\partial_\mu\phi_A)\\
=\left\{\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A} (\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A\right\}\xi^r+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\phi)_A\partial_\mu\xi^r\\
=\frac{\partial\mathcal L}{\partial\partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\phi)_A\partial_\mu\xi^r
とnon-zeroになります。これを打ち消すような新しい場A(x)=(A_J(x))(J=1,\cdots,X)を導入します。これを一般ゲージ場といいます。18本目の式の4n個の\partial_\mu\xi^r(x)に比例する項を\delta A_Jの適当な線形結合によって打ち消すには、X\leqq 4nでなければなりません。必要最小限の自由度を選ぶ、すなわちX=4nとすると、A_J=A^r_\muとかけます。無限小局所一般ゲージ変換、11本目の式に伴って、一般ゲージ場は

A^r_\mu(x)\rightarrow A'^r_\mu(x)=A^r_\mu(x)+N^r_{s\mu}(x) \xi^s(x) - \partial_\mu \xi^r(x)
と変換されるものと仮定します。つまり、

\delta A^r_\mu=N^r_{s\mu} \xi^s - \partial_\mu \xi^r
です。このN^r_{s\mu}を決定することが本質的な問題のひとつになっていきます。物質場\phiと一般ゲージ場Aが相互作用する系のラグランジアン密度を

\mathcal L'(\phi,\partial\phi,A)
とします。この関数形\mathcal L'を決定することが問題です。まず、\mathcal L'は一般ゲージ原理から一般局所ゲージ変換によって不変であるので、

\delta\mathcal L=\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \phi_A}\delta\phi_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}\delta(\partial_\mu\phi_A)+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^r_\mu}\delta A^r_\mu\\
=\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \phi_A}\xi^r (\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}\left((\bm G_r\partial_\mu\phi)_A\xi^r+ (\bm G_r\phi)_A\partial_\mu\xi^r\right)+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^r_\mu}\left(N^r_{s\mu} \xi^s - \partial_\mu \xi^r\right)\\
=\left(\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^s_\mu}N^s_{r\mu}\right)\xi^r+\left( \frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\phi)_A-\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^r_\mu}\right)\partial_\mu \xi^r=0
が要請され、\xi^r, \partial_\mu\xi^rに対して恒等的に成り立つために、

\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^s_\mu}N^s_{r\mu}=0

\frac{\partial\mathcal L'}{\partial \partial_\mu\phi_A}(\bm G_r\phi)_A-\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^r_\mu}=0
です。まず、26本目の式は\mathcal L'の中には\partial_\mu\phi_A+A^r_\mu(\bm G_r\phi)_Aの形で含まれていることと同値です。これを次のようにまとめて、共変微分ということにします。

\nabla_\mu\phi_A:=\partial_\mu\phi_A+A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A

微分幾何に慣れていれば27本目の式はゲージ場が接続に対応しているということがわかるかと思います。今回はこの数学的な話には深入りせず、計算を続けていきます(次回、微分幾何学ゲージ理論については勉強して別記事にあげていく予定です)。共変微分の形で含まれるということがわかったので、ラグランジアン密度を次のように書き直します

\mathcal L'(\phi,\partial\phi,A)=\mathcal L''(\phi,\nabla\phi)
したがって、合成関数のチェインルールから

\frac{\partial\mathcal L'}{\partial\phi_A}=\frac{\partial\mathcal  L''}{\partial\phi_A}+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_B}\frac{\partial \nabla_\mu \phi_B}{\partial\phi_A}\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_B}A^r_\mu (\bm G_r)_B^A

\frac{\partial\mathcal L'}{\partial\partial_\mu\phi_A}=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_B}\frac{\partial\phi_B}{\partial\partial_\mu\phi_A}+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_B}\frac{\partial \nabla_\mu \phi_B}{\partial\partial_\mu\phi_A}\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}

\frac{\partial\mathcal L'}{\partial A^r_\mu}=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}\frac{\partial\phi_A}{\partial A^r_\mu}+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}\frac{\partial \nabla_\mu \phi_A}{\partial A^r_\mu}\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\phi)_A
となります。これらを25本目の式式に代入します。

\left(\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_B}A^s_\mu (\bm G_s)_B^A\right)(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_t\phi)_AN^t_{r\mu}\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\partial_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}\left((\bm G_t\phi)_AN^t_{r\mu}+A^s_\mu (\bm G_s \bm G_r\phi)_A\right)\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}\left((\bm G_t\phi)_AN^t_{r\mu}-A^s_\mu (\bm G_r \bm G_s\phi)_A+A^s_\mu (\bm G_s \bm G_r\phi)_A\right)\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}\left((\bm G_t\phi)_AN^t_{r\mu}-A^s_\mu ([\bm G_r, \bm G_s]\phi)_A\right)\\
=\frac{\partial\mathcal L''}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L''}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(N^t_{r\mu}-C^t_{rs}A^s_\mu) (\bm G_t\phi)_A=0
\mathcal L''の関数形はこのままでは定められないのですが、\mathcal Lと同じ関数形だと仮定します。つまり、次を仮定します。

\mathcal L''(\phi,\nabla\phi)=\mathcal L(\phi,\nabla\phi)

\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(N^t_{r\mu}-C^t_{rs}A^s_\mu) (\bm G_t\phi)_A=0
ここで、\nabla_\mu\phi_Aの変換性が\phi_Aの変換性と同じであることを要請します。すなわち、

\delta(\nabla_\mu\phi_A)=(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A\xi^r
を要請します。このもとで、8本目の式について、\mathcal Lの引数\partial_\mu\phi_A\nabla_\mu\phi_Aになっていて、かつ42本目の式が成り立っているので、大域ゲージ対称性の恒等式10本目の式が成り立ちます。

\frac{\partial\mathcal L}{\partial\phi_A}(\bm G_r\phi)_A+\frac{\partial\mathcal L}{\partial\nabla_\mu\phi_A}(\bm G_r\nabla_\mu\phi)_A=0
これを41本目の式に代入して、

\frac{\partial\mathcal L}{\partial \nabla_\mu \phi_A}(N^t_{r\mu}-C^t_{rs}A^s_\mu) (\bm G_t\phi)_A=0
を得ます。これが恒等的に成り立つためには

N^t_{r\mu}=C^t_{rs}A^s_\mu
です。これによって、ゲージ場Aの変換則が決定され、問題のひとつが解決されました。

A^r_\mu\rightarrow A'^r_\mu=A^r_\mu+C^r_{st}A^t_\mu \xi^s - \partial_\mu \xi^r

一般ゲージ場の強さ

電磁場のときに倣って、一般的に共変微分に対してゲージ場の強さF^r_{\mu\nu}を定義します。それは、共変微分の非可換性を用いて、

([\nabla_\mu,\nabla_\nu]\phi)_A=\nabla_\mu(\partial_\nu\phi_A+A^r_\nu(\bm G_r\phi)_A)-\nabla_\nu(\partial_\mu\phi_A+A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A)\\
=\partial_\mu(\partial_\nu\phi_A+A^r_\nu(\bm G_r\phi)_A)+A^s_\mu(\bm G_s)_A^B(\partial_\nu\phi_B+A^r_\nu(\bm G_r\phi)_B)\notag\\
\hspace{1em}-\partial_\nu(\partial_\mu\phi_A+A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A)-A^s_\nu(\bm G_s)_A^B(\partial_\mu\phi_B+A^r_\mu(\bm G_r\phi)_B)\\
=\partial_\mu A^r_\nu(\bm G_r\phi)_A-\partial_\nu A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A+A^s_\mu A^r_\nu(\bm G_s\bm G_r\phi)_A -A^s_\nu A^r_\mu(\bm G_s\bm G_r\phi)_A\\
=\partial_\mu A^r_\nu(\bm G_r\phi)_A-\partial_\nu A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A+A^s_\mu A^t_\nu([\bm G_s\bm G_t]\phi)_A\\
=\partial_\mu A^r_\nu(\bm G_r\phi)_A-\partial_\nu A^r_\mu(\bm G_r\phi)_A+C^r_{st}A^s_\mu A^t_\nu(\bm G_r\phi)_A\\
=:F^r_{\mu\nu}(\bm G_r\phi)_A
つまり、

F^r_{\mu\nu}:=\partial_\mu A^r_\nu-\partial_\nu A^r_\mu+C^r_{st}A^s_\mu A^t_\nu
です。ゲージ場の強さの変換則は

F^r_{\mu\nu}\rightarrow F'^r_{\mu\nu}=\partial_\mu A'^r_\nu-\partial_\nu A'^r_\mu+C^r_{st}A'^s_\mu A'^t_\nu\\
=\partial_\mu (A^r_\nu+C^r_{st}A^t_\nu \xi^s - \partial_\nu \xi^r)-\partial_\nu (A^r_\mu+C^r_{st}A^t_\mu \xi^s - \partial_\mu \xi^r)\notag\\
\hspace{1em}+C^r_{st}(A^s_\mu+C^s_{pq}A^q_\mu \xi^p - \partial_\mu \xi^s) (A^t_\nu+C^t_{pq}A^q_\nu \xi^p - \partial_\nu \xi^t)\\
=F^r_{\mu\nu}+C^r_{ts}F^s_{\mu\nu}\xi^t
となります。

一般ゲージ場の方程式

一般ゲージ場の方程式は、一般ゲージ場の方程式を定める作用の候補として、まず要請されるのが相対論的に不変であることと局所一般ゲージ変換に対して不変であることです。一般ゲージ場の作用を

\mathcal L_0(A,\partial A)
とします。無限小ゲージ変換、46本目の式に対する不変性が要請されるので、

\delta\mathcal L_0=\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}\delta A^r_\mu+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}\delta(\partial_\nu A^r_\mu)\\
=\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}\delta A^r_\mu+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}\partial_\nu(\delta A^r_\mu)\\
=\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}(C^r_{st}A^t_\mu \xi^s - \partial_\mu \xi^r)+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}\partial_\nu(C^r_{st}A^t_\mu \xi^s - \partial_\mu \xi^r)\\
=\left(\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}C^s_{rt}A^t_\mu+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}C^s_{rt}\partial_\nu A^t_\mu\right)\xi^r+\left(-\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\mu A^r_\nu}C^s_{rt}A^t_\nu\right)\partial_\mu\xi^r+\frac12\left(\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\mu A^r_\nu}\right)\partial_\nu\partial_\mu\xi^r
より、恒等式

\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}C^s_{rt}A^t_\mu+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}C^s_{rt}\partial_\nu A^t_\mu=0

\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}-\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\mu A^r_\nu}C^s_{rt}A^t_\nu=0

\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\nu A^r_\mu}+\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial \partial_\mu A^r_\nu}=0
を得ます。64本目の式より、26本目の式で考えたことと同様に、\partial_\nu A^r_\mu-\partial_\mu A^r_\nuの形で作用に含まれるということになります。\partial_\nu A^r_\mu-\partial_\mu A^r_\nuの代わりに、その形を含むF^r_{\mu\nu}で表すとします、すなわち

\mathcal L_0(A,\partial A)=\mathcal L_0'(A,F)
とします。すると、チェインルールより

\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial A^r_\mu}=\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial A^r_\mu}+2\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial F^s_{\mu\nu}}C^s_{rt}A^t_\nu

\frac{\partial\mathcal L_0}{\partial_\mu\partial A^r_\nu}=2\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial F^r_{\mu\nu}}
となります。これらを63本目の式に代入すると、

\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial A^r_\mu}+2\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial F^s_{\mu\nu}}C^s_{rt}A^t_\nu=2\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial F^r_{\mu\nu}}C^s_{rt}A^t_\nu\\
\frac{\partial\mathcal L_0'}{\partial A^r_\mu}=0
ゆえ、\mathcal L_0'F^r_{\mu\nu}のみに依るということになります。これで改めて、一般ゲージ場のラグランジアン密度を

\mathcal L_0(F)
とします。57本目の式の関数形とは異なることに注意してください。以上の要請からは、これ以上具体的にラグランジアン密度を定めることはできません。

参考文献

内山龍雄 (1987) 『一般ゲージ場論序説』 岩波書店.