量子力学をやっていてスピンの話が出た後に2成分波動関数というものが突然現れてきたりすることがあるかと思います。これはいったいどういうことなのでしょう。波動関数を並べただけ?
スピノル表示
まずスピンのスピン量子数がであるとします。電子の場合はですね。このとき状態ケットはヒルベルト空間に属しています。です。スピンの固有ケットを簡単にとします。ですね。
次のようにスピンの方を展開していきます。
ここのはと書いてスピン波動関数(スピンの確率振幅)といいます。
ここで, と定義します。すると、
と簡単に書けますね。これでもいいのですが、ここから表示、すなわち波動関数として表示することを考えます。しかし通常、波動関数と呼んでいるもの(スピンを考慮していないものです)とは異なるのでここでは、通常、波動関数と呼んでいるものを軌道波動関数と呼び、今から考えるものをスピン-軌道波動関数と呼ぶことにします。素直にと内積をとればよいのですが、この内積はにのみ作用、すなわちであることに注意します。(軌道とスピンは分けられますよね。)
軌道波動関数のようにスピン-軌道波動関数をと定義します。すると、
と書けるわけです。これがまさにスピノル-表示です。この表示によって、
と書けます。ここで、規格化条件より
(スピンの固有ブラケットの正規直交性)
となります。再度確認すると、スピン-軌道波動関数はスピン波動関数と軌道波動関数の積になっているます。お気持ち的にはスピンと軌道が独立であるゆえに積事象の確率*1が各々の確率の積で表されているということですね。
テンソル空間の基底と内積をとっていただけ
...なんだかやってることが遠回りだとは思いませんか?今までの話は次の演算によって一言で片付いてしまいます。元の状態ケットにを左からかけて内積*2をとります。(はをすべて考えたもので、離散変数のように扱います。) 演算子のそれぞれが作用する空間に気を付けましょう。
終わりです。たったこれだけのことをそれぞれ別々に扱いたいがために遠回りをしていたのですね。そしてがの基底、がの基底となっています。テンソル空間はそれを構成するベクトル空間の基底を掛け合わせた数だけ基底がありますよね、今の場合は個の基底があって、その基底へでの展開を見ていただけです。スピンの方だけを先に展開しておいてから考えるというアイデアがスピノル表示だったのですが、このように同時にやってしまえば話は簡単になってしまうのです。もちろん、スピノル表示ではなく、逆に、先に軌道の方の展開を考えることもできます。つまり次の式のようなことです。
です。僕自身は知らないのですがこの表示は散乱問題で使われるようです。では具体例をみていきます。
電子の場合
では電子などのスピン量子数を例に考えてみましょう。この場合は、であり、とはのことであり、また, と慣習的に書きます。アップスピン、ダウンスピンというやつですね。そうすると、状態ケットは次のように書けます。
となっていて、これの-表示が
となるわけです。これはに属しています。スピンがとのどちらで観測されるか、さらに-表示の場合はどこで電子が観測されるか、の独立な事象をそれぞれとで考えているだけですね!