一般相対性理論とは、重力の仕組みは実は質量のある物質の存在が時空間を歪めることにより物体に力が働いているようにみえる、という革新的で美しい微分幾何学的なアインシュタインが作った理論です。今回はその基礎方程式であるアインシュタイン方程式を変分原理から導きます。
ニュートン重力とのアナロジー
アインシュタインによる重力の見方以前の、重力理論をニュートン重力といい、一般相対論による重力をアインシュタイン重力といいます。ニュートン重力のラグランジアン密度はで作用は、今は平坦な時空上なので,となります。変分原理から
と正しくニュートン重力のポアソン方程式が得られます。このように空間に関すると物質分布に関するの和で書けていたのでこのアナロジーで一般相対論的なラグランジアン密度も時空間と物質分布のラグランジアン密度の和でかけるはずです。
アインシュタイン重力の類推
アインシュタイン方程式を導く作用を類推するために、次のように考えます。まず、重力が時空間の歪みであるという原理から、時空という多様体を特徴づける変数として、計量テンソル場の成分を考えます。そして、局所ローレンツ系がとれることから時空は(4次元)ローレンツ多様体であると期待されます。また計量が保存することと捩れがないなどの自然な要請から、接続係数が第二種クリストッフェル記号で与えられることがわかります。そして、重力場のラグランジアン密度は場および場の1階微分と2階微分から構成される(ただし, 2階微分については1次)と類推します。そうすると、「場,1階微分,2階微分から構成され,2階微分は1次であるようなスカラー場は一般にとかける。」(はリッチスカラー)という定理を用います。この定理の証明には局所ローレンツ系と適当な座標変換を用いることでできます。重力の歪みを与える物質場のラグランジアン密度をとします。アインシュタイン方程式を導くラグランジアン密度はと類推されます。係数は非相対論的極限でニュートン重力のポアソン方程式に一致するように決められます。ここでは天下り的に先に係数を与えておくことにします。
変分の計算の方針
一般相対性原理から、作用は不変量となるようにとなります(座標変換をしても作用が不変になるようにがかかっています)。物理法則(基礎方程式)は、変分原理から
を満たすようなものとなります。 で変分をとり、 次の形になったとき、
一般相対論における物理法則の方程式が
となるわけです。 よって、, , を具体的に求める、すなわちやなどを を‘吐き出す’まで計算していくことが一般相対論の 基礎方程式(アインシュタイン方程式)を導出する方針となります。
重力場の変分の計算
以下ひたすら計算を実行していきます。
なので, , , を計算すればよいです。(はを求めるために用います。)
の計算
\begin{equation}
\delta g^{\mu\nu}=-g^{\mu\lambda}g^{\nu\kappa}\delta g_{\lambda\kappa}
\end{equation}
の計算
ここで, 次の近似をが成り立つことを用います。
\begin{equation}
\delta g=g g^{\mu\nu}\delta g_{\mu\nu}
\end{equation}
の計算
\begin{equation}
\delta \sqrt{-g}=\frac{1}{2}\sqrt{-g} g^{\mu\nu}\delta g_{\mu\nu}
\end{equation}
ここで,微分であっても同様の計算なので次の式がなりたつ.
いま考えている時空間は計量が保存し, 捩率がゼロだとすると接続係数はクリストッフェルの記号で与えられるから,であるゆえ,
\begin{equation}
\Gamma^\mu_{\mu\nu}=\frac{1}{\sqrt{-g}}\partial_\nu \sqrt{-g}
\end{equation}
ここで, あるベクトルの成分について,を考える.
\begin{equation}
\nabla_\mu V^\mu=\frac{1}{\sqrt{-g}}\partial_\mu (\sqrt{-g}V^\mu)
\end{equation}
の計算
について
\begin{equation}
\delta\Gamma^\mu_{\nu\lambda}=\frac{1}{2}(\nabla_\nu(g^{\mu\kappa}\delta g_{\kappa\lambda}) +\nabla_\lambda(g^{\mu\kappa}\delta g_{\nu\kappa}) -\nabla_\kappa(g^{\mu\kappa}\delta g_{\nu\lambda}))
\end{equation}
\begin{equation}
\delta R_{\mu\nu}=\nabla_\lambda \delta\Gamma^\lambda_{\mu\nu}-\nabla_\mu \delta\Gamma^\lambda_{\lambda\nu}
\end{equation}
ここでで縮約して上で求めた式を用いれば,
\begin{equation}
g^{\mu\nu}\delta R_{\mu\nu}=\frac{1}{\sqrt{-g}}\partial_\mu (\sqrt{-g}(g^{\lambda\nu}\delta\Gamma^\mu_{\lambda\nu}-g^{\mu\nu}\delta\Gamma^\lambda_{\lambda\nu}))
\end{equation}
の計算
今までの計算結果を代入すれば、
ここでストークスの定理を用いて、
と表面項になりますが、いま表面(3次元超曲面)が無限遠にあるか、あるいは上ではは0かつとします。 で構成されるも0となります。(表面項が残るようなことも考えられて、それは作用のほうに表面項と相殺しあうような項(ギボンズ--ホーキング項)を加えて修正されます。
fumofumobun.hatenablog.jpしたがって, この表面の積分は0となるので落としてよいです。
\begin{equation}
G^{\mu\nu}=R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}R g^{\mu\nu}
\end{equation}
の計算
\begin{equation}
C^{\mu\nu}=\Lambda g^{\mu\nu}
\end{equation}
とが求まりました。したがって、時空間の変分は、次のように表されます。
\begin{equation}
\delta S_g=-\frac{c^3}{16\pi G}\int_\Omega \left(R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}R g^{\mu\nu}+\Lambda g^{\mu\nu} \right)\delta g_{\mu\nu}\sqrt{-g} \ d\Omega
\end{equation}
物質場の変分の計算
なので、今までの計算結果を代入するたけで、形式的にはは求まったことになります。もちろん物質場ごとに計算はしなければなりません。
の計算
\begin{equation}
T^{\mu\nu}=2\frac{\delta \mathcal L_m}{\delta g_{\mu\nu}}+\mathcal L_m g^{\mu\nu}
\end{equation}
したがって, 物質の変分は、次のように表されます。
\begin{equation}
\delta S_m=\frac{1}{2c}\int_\Omega \left(2\frac{\delta \mathcal L_m}{\delta g_{\mu\nu}}+\mathcal L_m g^{\mu\nu} \right)\delta g_{\mu\nu}\sqrt{-g} \ d\Omega
\end{equation}
アインシュタイン方程式
以上より、 一般相対論におけるラグランジアン密度や作用、作用の変分は、
\begin{equation}
\mathcal L=\frac{c^4}{16\pi G}(R-2\Lambda) + \mathcal L_m
\end{equation}
\begin{equation}
S=\frac{1}{c}\int_\Omega \left(\frac{c^4}{16\pi G}(R-2\Lambda) + \mathcal L_m\right) \sqrt{-g} \ d\Omega
\end{equation}
\begin{equation}
\delta S=\frac{1}{c}\int_\Omega \left(-\frac{c^4}{16\pi G} \left(R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}R g^{\mu\nu}+\Lambda g^{\mu\nu}\right) + \frac{1}{2} \left(2\frac{\delta \mathcal L_m}{\delta g_{\mu\nu}}+\mathcal L_m g^{\mu\nu} \right)\right)\delta g_{\mu\nu}\sqrt{-g} \ d\Omega
\end{equation}
変分原理より基礎方程式(アインシュタイン方程式)は、
\begin{equation}
R^{\mu\nu}-\frac{1}{2}R g^{\mu\nu}+\Lambda g^{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4}\left(2\frac{\delta \mathcal L_m}{\delta g_{\mu\nu}}+\mathcal L_m g^{\mu\nu}\right)=\frac{8\pi G}{c^4}T^{\mu\nu}
\end{equation}
となります。改めておさらいをすると、多様体を特徴づける変数を変化させていき、すなわち時空をいろんな歪み方をさせ、スカラー曲率を物質場とともに変分をとることにより、歪み方を探っていき、その作用が停留するところが実際の時空の歪み方を与えます。その物質に対する時空の応答の微分幾何学的な方程式がアインシュタイン方程式になっています。