ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【多様体論】多様体の定義

一般相対論の舞台は時空、そして時空は多様体です。(正確に言えばローレンツ多様体です。) つまり、多様体論を学ぶことは一般相対論を学ぶ上で必須となってきます。この記事の読者の対象は一般相対論を学ぼうとしている人とします。多様体というのは簡単いえば、地図を貼り付けられる図形のようなものです。地図を貼り付けられるというのが重要で、そのことによってさまざまな性質を課すことができます。

位相空間のお気持ち

多様体位相空間のうち、地図が貼り付けられるものです。位相空間とは近さの概念をもつ集合ですが、近さの定め方はやや緩いです。まず、距離を定義した集合からいえる性質を抜き出して、距離という概念を取り払って、集合の元同士の近さや遠さという概念を、その部分集合に対して開集合という集まり方を定めることで定めることができます。これを用いることで、距離なしに連続性や極限の定義をすることができます。まずそのために距離空間から見ていきましょう。

距離空間の重要な3つの性質

まず距離空間(X,d)とは
\forall{x,y,z} \in{X},\ d:X \times X \ni (x,y)\mapsto d(x,y)\in{\mathbb R}に対して
1.d(x,y)\geq 0 \ (d(x,y)=0 \Longleftrightarrow x=y)
2.d(x,y)=d(y,x)
3.d(x,z)+d(z,y)\geq d(x,y)
が成り立つものでした(距離空間の公理)。そして、点a\in Xにおける\epsilon-近傍N_{\epsilon}(a;X)
N_{\epsilon}(a;X)=\{x\in X|d(x,a)<\epsilon\}
と定義します。ここで、Xの部分集合U\subset Xが開集合であることをUの任意の点\forall a\subset Uに対して、\epsilon \subset{\mathbb R}>0を十分に小さくとると、N_{\epsilon}(a;X)\subset Uが成り立つことと定義します。(特にUの'境界'でこれが成り立つことが閉集合との大きな違いです。) 距離をいれた空間Xにおける開集合の性質として次の3つが挙げられます。Xの開集合の集合(集合族)を\mathcal Oとして、
1.X \in \mathcal O, \varnothing \in \mathcal O
2.\forall k\in{\mathbb N}_{\leqq n},\  U_k\in \mathcal O \Longrightarrow \bigcap_{\forall k\in{\mathbb N}_{\leqq n}} U_k \in \mathcal O
3.\forall \lambda\in\Lambda,\ U_\lambda \in \mathcal O \Longrightarrow \bigcup_{\forall\lambda\in\Lambda} U_\lambda \in \mathcal O
が成り立ちます。

位相空間の定義

さきほどあげた3つの距離空間の性質として重要なことは、その主張に距離(d:X\times X \rightarrow {\mathbb R})が明示的に表れていないことです。ここでこの3つの性質を定義として、ある集合に対してその元同士の近さの概念が距離空間よりも抽象的に得られるのです。この3つだけでいいのは不思議ですが、受け入れることにします。ここで、集合Xとその部分集合族\mathcal Oについて、\mathcal OXの位相で、(X,\mathcal O)位相空間であるとは、次の3つの条件が成り立つことこととします。
1.X \in \mathcal O, \varnothing \in \mathcal O
2.\forall k\in{\mathbb N}_{\leqq n},\  U_k\in \mathcal O \Longrightarrow \bigcap_{\forall k\in{\mathbb N}_{\leqq n}} U_k \in \mathcal O
3.\forall \lambda\in\Lambda,\ U_\lambda \in \mathcal O \Longrightarrow \bigcup_{\forall\lambda\in\Lambda} U_\lambda \in \mathcal O
\mathcal Oは開集合系ともいい、\forall U \in \mathcal OXの開集合Uといいます。(この補集合として閉集合が定義されます。) 要するに、予め開集合であるもの(開集合のあつまり)を\mathcal Oとして定義しているということになります。それらが、距離空間で現れた開集合の性質を満たしているという前提で。

ハウスドルフ空間

ハウスドルフの公理とは、位相空間(X,O)の任意の異なる2点p,q\in Xに対して、それぞれを含むU\cap V=\varnothing となるような開集合U,Vがあることです。ハウスドルフの公理を満たす位相空間ハウスドルフ空間といいます。位相空間は一般にはハウスドルフ空間ではないです。ハウスドルフ空間は、開集合という近さの指標をもってして2点をしっかりと区別することができるという性質を持っているのです。

連続写像

位相空間には開集合をもってして近さを議論することができ、連続性を定義することができます。位相空間(X,\mathcal O_X),(Y,\mathcal O_Y)の間の写像f:X \rightarrow Yがあるとします。f連続写像であるとは、\forall U \in \mathcal O_Yに対して、f^{-1}(U) \in \mathcal O_Xが成り立つことです。なぜこれで連続写像と言えるかというと、\epsilon-\delta的に定めた連続写像の概念と一致するからです。これは位相のテキスト等に譲ることとします。f同相写像であるとは、f全単射で、ff^{-1}連続写像であることです。X,Yの間に同相写像があるとき、XYは位相同形であるといい、X\approx Yと表します。

多様体のお気持ち

多様体とは、まあまあいい性質をもった図形のことで、外在的には十分次元の大きいユークリッド空間に図形を置いて、その図形の上で動くことを扱いますが、これを外在的なユークリッド空間の存在なしに内在的に議論を進めることができます。しかし、この図形が曲がっていると従来のように関数の微分積分を考えたり、ベクトルを扱ったりすることができなくなるため、さまざまな工夫が必要となってきます。

局所座標

位相空間(M,\mathcal O)の開集合Uからm次元数空間\mathbb R^mのある開集合U'への同相写像\phi : U\rightarrow U'があるとき、(U,\phi )m次元座標近傍といい、\phi を局所座標系といいます。

位相多様体

位相空間(M,\mathcal O)m次元位相多様体であるとは、
1.(M,\mathcal O)がハウスドルフ位相空間である
2.Mの任意の点に対するm次元座標近傍が存在して、これにMが被覆される
2.は、すなわち、座標近傍の族(座標近傍系またはアトラス)\mathcal S=\{(U_\alpha,\phi_\alpha)\}_{\alpha\in A}があり、M=\bigcup_{\alpha \in A}U_\alpha となることです。
今後位相多様体であるような位相空間(M,\mathcal O)を単に(M,\mathcal S)さらには単にMと表し、暗に適当な位相や座標近傍系が入っているものとします。

微分可能多様体

位相多様体MC^r微分可能様体(C^r微分可能多様体またはC^r級可微分多様体または単にC^r多様体)であるとは、
U_\alpha \cap U_\beta\not=\varnothingであるような\forall\alpha ,\beta\in Aについて、
\phi_\beta\circ\phi_\alpha^{-1}:\phi_\alpha(U_\alpha\cap U_\beta)\rightarrow\phi_\beta(U_\alpha\cap U_\beta)
という座標変換がC^r写像であることです。
Mの相異なるC^r級座標近傍系\mathcal S\mathcal Tがあり、\mathcal S\mathcal Tについて、\mathcal S \cup \mathcal TM上のC^r級座標近傍系になるとき、\mathcal S\mathcal Tは同値であるといいます。また、同値なC^r級座標近傍系\mathcal S\mathcal Tに対して、C^r多様体(M,\mathcal S)(M,\mathcal T)は同一であるといいます。また、C^r級座標近傍系\mathcal Sと同値であるような任意のC^r級座標近傍系(\mathcal T,\mathcal U,\mathcal V,...)との和集合を\mathcal M=\mathcal M(\mathcal S)=\mathcal S \cup \mathcal T \cup \mathcal U \cup \mathcal V \cup ...\mathcal Sから定まるMの極大座標近傍系\mathcal Mといい、\mathcal M(\mathcal S)\mathcal Sから定まるMC^r微分構造といい、\mathcal S\mathcal Mに従属するといいます。

参考文献

松本幸夫(1988)『多様体の基礎』(基礎数学5)東京大学出版会.