ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【一般相対性理論】線形化重力場の量子化

線形化した重力場は電磁場と同様に量子化することができます。電磁場の場合と比べながら量子化していきましょう。そして、古典的な波を量子化することによって、その波の粒子性というものを捉えることができます。この記事はレポートで出題された「重力波に粒子性はあるか」という問題で提出した内容です。(こんなのB1に出題するのオカシイ...)

\def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}}\def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}}\def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}}

電磁波の粒子性

まず電磁波に粒子性があるというのは、現代的な視点からすれば、古典場としてみる電磁場には波動性しかなく、場と粒子というのは別々の描像であり、場である電磁波に粒子性を見出すことはできないのですが、全てが場であると捉え、その場を(第二)量子化することによって時空点をパラメータとする場を演算子化し、真空状態に対して場の生成演算子を作用させることにより粒子を生成させることができると考えます。 古典論では粒子は生成も消滅もしませんが、場を量子化した場の量子論では粒子は場の局所的なエネルギーとみなし、場から粒子を生成も消滅もすることができるようです。(と僕は理解しています、まだきちんと場の量子論を学んでいないためよくはわかっていません。)

自由電磁場の量子化

まず、自由電磁場の量子化の流れをみます。発生源がないときの電磁場の方程式はマクスウェル方程式から電磁ポテンシャルについて
\displaystyle \Box A_\mu =0
が得られました。この解はフーリエ分解によって、
\displaystyle A_\mu = \int \frac{d^3\boldsymbol k}{\sqrt{(2\pi)^3 2k^0}}\sum_{\lambda=0}^3 \left(a(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon^\mu (\boldsymbol k,\lambda 
)e^{ikx}+a^{*}(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon^{\mu*}(\boldsymbol k,\lambda)e^{-ikx}\right)
ただし、\displaystyle kx=k_\mu x^\mu, \epsilon^i\displaystyle \boldsymbol kに垂直な単位ベクトルです。

第二量子化の手法はいくらかあるのですが、正準量子化をするとします。電磁場の場合、\displaystyle A^0の正準共役運動量の第0成分\displaystyle \pi_0\displaystyle 0であるという困難があり、ローレンスゲージで固定した*1次のラグランジアン密度
\displaystyle \mathcal L=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}-\frac{1}{2}(\partial_\mu A^\mu)^2
を用います。このラグランジアン密度は部分積分を経ると次のラグランジアン密度と等価になっています。
\displaystyle \mathcal L=-\frac{1}{2}\partial_\nu A_\mu \partial^\nu A^\mu
このラグランジアン密度に対するラグランジュの場の方程式が上の式となります。方程式を再現するラグランジアン密度がわかったので、場\displaystyle A^\muに対する正準共役運動量場\displaystyle \pi_\muが定義できます。
\displaystyle \pi_\mu:=\frac{\partial \mathcal L}{\partial \partial_0 A^\mu}
正準量子化の手続きは次のようにします(これを信じる)。(\displaystyle x=(x^0,x^1,x^2,x^3)=(ct,\boldsymbol x)とします。)
\displaystyle A^\mu(x)\rightarrow \hat {A}^\mu(x)
\displaystyle [\hat{A}^\mu(ct,\boldsymbol x),\hat{\pi}_\nu(ct,\boldsymbol y)]=i\delta^\mu_\nu\delta^3(\boldsymbol{x-y})
\displaystyle [\hat{A}^\mu(ct,\boldsymbol x),\hat A^\nu(ct,\boldsymbol y)]=[\hat{\pi}_\nu(ct,\boldsymbol x),\hat{\pi}_\nu(ct,\boldsymbol y)]=0
方程式の解は\displaystyle a(\boldsymbol k,\lambda)演算子化することによって、次のようになり
\displaystyle \hat A_\mu = \int \frac{d^3\boldsymbol k}{\sqrt{(2\pi)^3 2k^0}}\sum_{\lambda=0}^3 \left(\hat a(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon^\mu (\boldsymbol k,\lambda 
)e^{ikx}+\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon^{\mu*}(\boldsymbol k,\lambda)e^{-ikx}\right)
これら\displaystyle \hat a(\boldsymbol k,\lambda),\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda)の交換関係は
\displaystyle [\hat a(\boldsymbol k,\lambda),\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k',\lambda')]=\eta_{\lambda\lambda'}\delta^3(\boldsymbol{k-k'})
\displaystyle [\hat a(\boldsymbol k,\lambda),\hat a(\boldsymbol k',\lambda')]=[\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda),\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k',\lambda')]=0
となります。 この\displaystyle \hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda)が電磁場の粒子すなわち光子の生成演算子\displaystyle \hat a(\boldsymbol k,\lambda)が消滅演算子になっていて、電磁場の真空状態\displaystyle \ket{0}
\displaystyle \forall \boldsymbol k,\lambda,\ \hat a(\boldsymbol k,\lambda)\ket{0}=0
\displaystyle \braket{0|0}=1
を要請し, 例えば1粒子状態は
\displaystyle \hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda)\ket{0}
になります。このようにして電磁場の粒子性が古典自由電磁場の量子化という手続きによってみることができます。

電磁場から重力場

上でみた量子化重力場に対して行いたいのですが、当然ながら(高階微分がたくさん入っているなどの理由から)困難がいくつもあるようです。まず一般相対論における重力の捉え方というのはエネルギーによって、時空という多様体が歪むことによってあたかも力が働いているかのように思えるということです。電磁場とのアナロジー量子化をしようとすると、この微分幾何的な見方はある程度捨てる必要があると思います。

ここでは重力波を1次の精度で、(できれば)量子化をし、電磁波同様に重力波にも粒子性があるのかということを考えます。もちろん近似理論なので完全ではないですが、定性的な議論にはなり得ると思います。

まず、アインシュタインの重力理論は一般相対論的に共変性が自明な形で書かれていますが、正準量子化をしようとすると、共変性が自明でないADM分解をし、正準形式に書き直さなければならないです。またいくらかの困難もあります。 重力場は線形化(1次の精度で考える)すると、\displaystyle \Box h_{\mu\nu}=0 という電磁場のような方程式に帰着します。fumofumobun.hatenablog.jp したがって、殆ど電磁場とのアナロジーで同様の議論を進めることができると考えられるので、線形化した重力場に限っては、正準形式を経由せず、生成消滅演算子の、上で見たような交換関係を課すことによって量子化するということをしてよいと思います。ゆえに、方針としては、[古典場のアインシュタイン方程式を線形化\displaystyle \rightarrow ゲージ固定 \displaystyle \rightarrow フーリエ分解で解く \displaystyle \rightarrow 演算子化し、解にあらわれている生成消滅演算子の交換関係を定める \displaystyle \rightarrow 重力場の真空状態に生成演算子を作用させ、重力子を定義する] こののような流れが使えると思われます。電磁場同様に、
\displaystyle \Box h_{\mu\nu}=0
を満たす自由場を量子化することとします。まずフーリエ分解により、この古典解は、
\displaystyle h_{\mu\nu} = \int \frac{d^3\boldsymbol k}{\sqrt{(2\pi)^3 2k^0}}\sum_{\lambda=0}^3 \left(a(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon_{\mu\nu} (\boldsymbol k,\lambda 
)e^{ikx}+a^{*}(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon_{\mu\nu}^*(\boldsymbol k,\lambda)e^{-ikx}\right)
でした。

線形化自由重力場量子化

上で述べたように、古典場として解いた解にあらわれる係数を生成消滅演算子として量子化し、交換関係を課すことにより線形化重力場量子化とします。(線形という特別な場合なので正準量子化の正準形式で表すということをスキップしているということです。これが良いことなのかは力不足でわかりません...。)

古典場の解を演算子化します。
\displaystyle \hat h_{\mu\nu} = \int \frac{d^3\boldsymbol k}{\sqrt{(2\pi)^3 2k^0}}\sum_{\lambda=0}^3 \left(\hat a(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon_{\mu\nu} (\boldsymbol k,\lambda 
)e^{ikx}+\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda 
)\epsilon^*_{\mu\nu}(\boldsymbol k,\lambda)e^{-ikx}\right)
交換関係
\displaystyle [\hat a(\boldsymbol k,\lambda),\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k',\lambda')]=\eta_{\lambda\lambda'}\delta^3(\boldsymbol{k-k'})
\displaystyle [\hat a(\boldsymbol k,\lambda),\hat a(\boldsymbol k',\lambda')]=[\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda),\hat a^{\dagger}(\boldsymbol k',\lambda')]=0
を課して量子化とします。この\displaystyle \hat a^{\dagger}(\boldsymbol k,\lambda)が線形化重力場の粒子すなわち重力子の生成演算子\displaystyle \hat a(\boldsymbol k,\lambda)が消滅演算子になっています。このようにして重力場の粒子性が古典自由線形化重力場量子化という手続きによってみることができると思います。ただ、非線形項や相互作用までも考えると、量子化には多くの困難があるようで、それが弦理論などの最先端の量子重力理論に繋がるようです。 厳密に重力場は現段階で量子化はできておらず、また重力子の検出もできていないようで、この話はあくまで自由重力場の1次の精度での重力子の示唆というだけであって、現実でどうなっているのか僕には見当が付きません。

参考文献

坂本眞人 著 (2014) 『場の量子論 -不変性と自由場を中心にして-』(量子力学選書) 裳華房.
和田純夫 著 (2018) 『今度こそわかる重力理論』(今度こそわかるシリーズ) 講談社.
『Lecture 3 Quantization of gravitational waveshttps://www.youtube.com/watch?v=XChiTmQcDAM

*1:このゲージ固定の仕方がさらなる困難を生み, 実際は期待値としてゲージ固定をしなければならないです。