ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【電磁気学】多重極展開

四重極モーメントなどはイメージが難しいと思います.というか僕自身よくわかってなかったです.例題とともに明らかにしていきます.

\newcommand{\bm}{\boldsymbol}

「実際の」双極子

有限の電気双極子は2つの点電荷系とみてクーロンの法則と重ね合わせから静電ポテンシャルが求まります.そこで,この2点電荷が正負が逆で大きさが同じ電荷の対(q,-q)であって,距離を無限小にして微小双極子にすると,静電ポテンシャルを簡単に書くことができます.(あくまで,微小な場合であり,有限な大きさの双極子の作るポテンシャルではないです.)(微小にしていくかわりに遠方のポテンシャルを考えるというのでもよいです.)

微小な極限をとるときには,双極子モーメントベクトルという次の量


\bm p=q\bm x'_1 +(-q)\bm x'_2

を一定にします.\bm x'_1は点電荷1の位置ベクトルです.(notationはある程度察してください.)

計算は省略して,このポテンシャルは次のように書かれます.


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{\bm p\cdot \bm r}{r^3}

「実際の」四重極子

うえの有限の「実際の」双極子をもう一つ考えて.180度回転させて,正方形上に並べたものが有限の「実際の」四重極子になります.これも結構めんどくさいですが,クーロンの法則と重ね合わせによって静電ポテンシャルが厳密に求まります.が,同様に4つの距離を微小にしていくとポテンシャルが簡単な形になります.双極子モーメントベクトルに対応するものが四重極子モーメントテンソルです.それは,今の場合


\displaystyle \bm Q=\left(\bm x'_1\otimes \bm x'_1-\frac{1}{3}{\bm x'_1}^2 \bm E\right)q +\left(\bm x'_2\otimes \bm x'_2-\frac{1}{3}{\bm x'_2}^2 \bm E\right)(-q)+\left(\bm x'_3\otimes \bm x'_3-\frac{1}{3}{\bm x'_3}^2 \bm E\right)q+\left(\bm x'_4\otimes \bm x'_4-\frac{1}{3}{\bm x'_4}^2 \bm E\right)(-q)

です.定義からわかるように\bm Qは対称トレースレステンソルです.(トレースレスとはトレースが0であるということです.)\bm Eは単位テンソルです.

ポテンシャルは


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{Q(\bm r)\cdot \bm r}{r^5}

\bm Q(\bm r)\cdot \bm r{}^t\bm r \bm Q \bm rとも書かれますね.

四重極子だけでなく,八重極子・・・などと無限に続いて考えることができます.

多重極展開

多重極展開というのは,複雑な物体(電荷分布\rho(\bm x))のつくる遠方での静電ポテンシャルを近似する手法です.これらは点電荷,双極子,四重極子,・・・の重ね合わせで近似できます.具体的な細かい計算は教科書は参考書に譲るとして,問題となるのは「じゃあ実際に計算をするうえで,どのくらいの電荷の点電荷,どのくらいの双極子モーメントをもつ”微小な”双極子,どのくらいの四重極子モーメントテンソルをもつ”微小な”四重極子としてみなせるものの重ね合わせなのか」という定量性になってくると思います.点電荷としては,次の量q


\displaystyle q=\int_V \rho(\bm x') d^3 x'

電荷とするようなもので,双極子としては,次のような量\bm p


\displaystyle \bm p=\int_V \bm x' \rho(\bm x') d^3 x'

を双極子モーメントベクトルにもつような双極子で,四重極子としては,次のような量\bm Q


\displaystyle \bm Q=\int_V \left(\bm x'\otimes \bm x'-\frac{1}{3}{\bm x'}^2 \bm E\right)\rho(\bm x') d^3 x'

を四重極モーメントテンソルにもつような四重極子とみなせます.これらを「重ね合わせ」ていくようなものが元の複雑な物体がつくる静電ポテンシャルの(遠方での)近似となります.

例題-四重極子の多重極展開-

こちらがゼミで混乱を招いたものなのですが,さきほどの「実際の四重極子」であって「微小でないもの」のつくる静電ポテンシャルを求めてみます.四重極子の4つの電荷のそれぞれの最も短い間の距離をdとします.また求めたい位置ベクトルの方向と,原点から四重極子の1辺に向かって下した垂線のなす角を\thetaとします.(察してください())


厳密な答えは,クーロンの法則を4回つかってそれを重ね合わせたものになります.しかし,それはおいておいて,今回は遠方での近似ポテンシャルを求めてみます.

「四重極子なので四重極モーメントテンソルを求めればそれが答えになる」という論理では一般には誤りなのです.確かにこれは四重極子(の一種)なのですが,「微小な」四重極子ではなく,有限な四重極子です.ですから次のような論法になります.


この系の4つの電荷
q_1=e,q_2=-e,q_3=e,q_4=-e
とし,その位置ベクトルを
\displaystyle \bm x'_1=\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_2=-\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_3=-\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y,\bm x'_4=\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y
とします.これに対して多重極展開を実行します.

電荷の項は


\displaystyle q=\sum_{k=1}^4 q_k\\
=e-e+e-e\\
=0

なので0です.

双極子の項は


\displaystyle \bm p=\sum_{k=1}^4  \bm x'_k q_k\\
=\left(\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y\right)e+\left(-\frac{d}{2}\bm e_x+\frac{d}{2}\bm e_y\right)(-e)+\left(-\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y\right)e+\left(\frac{d}{2}\bm e_x-\frac{d}{2}\bm e_y\right)(-e)\\
=0

なので0です.

四重極子の項は


\displaystyle \bm Q=\sum_{k=1}^4  \left(\bm x'_k\otimes \bm x'_k-\frac{1}{3}{\bm x'_k}^2 \bm E\right)q_k\\
=d^2e (\bm e_x\otimes\bm e_y+\bm e_y\otimes \bm e_x)

となります.よって,\bm r=r\cos\theta\bm e_x+r\sin\theta\bm e_yなので(数学的に厳密には双対基底で書くべきです)


Q(\bm r)\cdot \bm r=d^2e(r\sin\theta\bm e_x+r\cos\theta\bm e_y)\cdot (r\cos\theta\bm e_x+r\sin\theta\bm e_y)\\
=d^2er^2\sin2\theta

であり,この項のポテンシャルは


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{d^2e\sin2\theta}{r^3}

となります.

しつこいようですが,ではこの問題の四重極子はこのポテンシャルが厳密な答えとなるのでしょうか.なりません.有限な大きさを持っているので,この次に八重極子の項などが続いていきます.答えは,


\displaystyle \phi(\bm r)=\frac{1}{4\pi\epsilon}\frac{2}{3}\frac{d^2e\sin2\theta}{r^3}+\mathcal O\left((1/r)^4\right)