ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【一般相対性理論】時空の静的性とバーコフの定理

バーコフの定理という時空の時間に関する対称性について軽くまとめてみます.

シュワルツシュルト外部解

シュワルツシュルト外部解は,シュワルツシュルト座標で

ds^2=-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)dt^2+\left(1-\frac{r_g}{r}\right)^{-1}dr^2+r^2(d\theta^2+d\phi^2)

と書けますね(r_g=2GM).これは真空T_{\mu\nu}=0_{\mu\nu}における解なので,実際に物質が分布している部分は記述しておらず,外部解や真空解と言われます.
逆に,物質が分布している部分の時空を記述するものは,内部解と言われます.

バーコフの定理の主張は,球対称解は静的であり,かつそれはシュワルツシュルト解のみであるというものです.


シュワルツシュルト時空の静的性

座標に依存せずに対称性をはかるためにキリングベクトルを用いて静的とはどのように定義されるのかを確認しておきます.まず超曲面を用意して,これを複製したものを積み重ねていき,その超曲面に直交するように回転率のないコングルエンスを通すとします(超曲面直交⇔回転率なしです).そうすると,そのコングエンスに伴うベクトル場は超曲面の法ベクトル場であるわけですが,その積分曲線をたどっても超曲面は一定であるわけですからキリングベクトルになっています.そのようなキリングベクトルが時間的である部分があれば,あるいは漸近的にでも時間的であればその時間的である領域における観測者からするとこのように作られた時空は静的であると考えられます.時間的でない領域における観測者からすれば,静的ではないのでしょう(このあたりを議論している文献が見当たらないので自信がなく個人的な見解になりますが...).逆に静的な時空とは少なくとも漸近的にでも時間的であるような完備なキリングベクトルが存在して,それが超曲面直交であるような時空と定義します.ちなみに,そのようなキリングベクトルが存在はするが超曲面直交でないときには定常な時空といいます.


静的とは何かがはっきりとしたところで,準備としてシュワルツシュルト時空が静的であることを確かめましょう.これを確かめればあとは球対称解がシュワルツシュルト時空のみであることが示されればよいわけです.ベクトル場\xi:=\partial_0=\xi^\mu \partial_\muは完備なキリングベクトルになっていてr>r_gで時間的です.これは簡単な計算で確認ができて,

\mathscr{L}_{\xi}g_{\mu\nu}=\xi^\lambda \partial_\lambda g_{\mu\nu}+g_{\lambda\nu}\partial_\mu \xi^\lambda + g_{\mu\lambda}\partial_\nu \xi^\lambda
=\xi^0 \partial_0 g_{\mu\nu}+g_{0\nu}\partial_\mu \xi^0 + g_{\mu0}\partial_\nu \xi^0
=\partial_0 g_{\mu\nu}=\frac{\partial g_{\mu\nu}}{\partial t}=0_{\mu\nu}

とリー微分が0,すなわちキリングベクトルです.\xi^2=\xi_\mu \xi^\mu=-\left(1-\frac{r_g}{r}\right)なのでr>r_gで時間的です.また都合よく\xi=\partial/\partial tというのはまさにt一定面の法ベクトルであるので,その面に直交しています(このようにかけるtはキリングパラメータといいます).よってシュワルツシュルト時空は静的な時空といえます.


球対称時空とシュワルツシュルト解の一意性

一意性自体は,標準的なテキストにあるような計算過程を追ってシュワルツシュルト解がただひとつでているということが証明になっているので割愛します.
ひとつコメントするとするなら,g_{tt}=-\exp(\nu(t,r))g_{rr}=\exp(\lambda(t,r))と置いて計算し,そのまま終了しているテキストが多いのが気にはなりました.
計算の簡略化と-g_{tt},g_{rr}>0を期待してそのように置くこと自体は良いアイデアだとは思うのですが,r < r_gも考えたいのであれば,g_{tt}=\exp(\nu(t,r))g_{rr}=-\exp(\lambda(t,r))と置きなおしてもう一度計算を追うか一言注意はしておいたほうがいいのかなと思っています(計算内容自体は符号が変わるだけなのですが).

この記事では,その計算は割愛するかわりにテキストではじめに仮定される,球対称性というものについて少しだけ掘り下げたいと思います.

おそらく量子力学でよく行う計算なので省きますが,角運動量演算子

l_x=-z\frac{\partial}{\partial y}+y\frac{\partial}{\partial z}=-\cos\phi\frac{\partial}{\partial \theta}+\cot\theta\sin\theta\frac{\partial}{\partial \phi}
l_y=z\frac{\partial}{\partial x}-x\frac{\partial}{\partial z}=\sin\phi\frac{\partial}{\partial \theta}+\cot\theta\cos\phi\frac{\partial}{\partial \phi}
l_z=-y\frac{\partial}{\partial x}+x\frac{\partial}{\partial y}=\frac{\partial}{\partial \phi}

SO(3)の生成子で,2次元球面S^2のキリングベクトル\xiが3つの任意パラメータを\epsilon_i(i=x,y,z)とし\xi=\sum_i\epsilon_i l_iになります(難しくはないのでS^2に対するキリング方程式を立てて求めてみるといい計算練習になります).

4次元時空が球対称性をもつというのは4次元時空が上にあげたキリングベクトルをもつということです.\theta\phi以外の座標trを足して

\xi=\xi^\mu\partial_\mu
=\sum_i\epsilon_i l_i
=\left(-\epsilon_x\cos\phi+\epsilon_y\sin\phi\right)\frac{\partial}{\partial \theta}+\left(\epsilon_x\cot\theta\sin\phi+\epsilon_y\cot\theta\cos\phi+\epsilon_z\right)\frac{\partial}{\partial \phi}

で,成分が

\xi^t=\xi^r=0
\xi^\theta=-\epsilon_x\cos\phi+\epsilon_y\sin\phi
\xi^\phi=\epsilon_x\cot\theta\sin\phi+\epsilon_y\cot\theta\cos\phi+\epsilon_z

であるということです.さてやりたいことはこれをキリングベクトルにもつような時空の計量がどのように制限されるかということです.単にキリング方程式に突っ込めばよいです.

\mathscr{L}_{\xi}g_{\mu\nu}=\partial_\lambda g_{\mu\nu}\xi^\lambda+\partial_\mu\xi^\lambda g_{\lambda\nu}+\partial_\nu\xi^\lambda g_{\mu\lambda}
=\partial_\theta g_{\mu\nu}\xi^\theta+\partial_\phi g_{\mu\nu}\xi^\phi+\partial_\mu\xi^\theta g_{\theta\nu}+\partial_\mu\xi^\phi g_{\phi\nu}+\partial_\nu\xi^\theta g_{\mu\theta}+\partial_\nu\xi^\phi g_{\mu\phi}
=0



\mu=\nu=t,rの方程式より得られるのは

\partial_\theta g_{tt}\xi^\theta+\partial_\phi g_{tt}\xi^\phi=0
\partial_\theta g_{tr}\xi^\theta+\partial_\phi g_{tr}\xi^\phi=0
\partial_\theta g_{rr}\xi^\theta+\partial_\phi g_{rr}\xi^\phi=0

ということはすぐにわかります.代表してttのみを考えればよいですね.任意パラメータ\epsilon_zにかかるのは\partial_\phi g_{tt}のみなので

\partial_\phi g_{tt}=0

がいえます.すなわち,g_{tt}\phiに依らないことがわかりました.このことからキリング方程式はさらに,

\partial_\theta g_{tt}\xi^\theta=0

となり,\phiのときとほぼ同様にしてただちにg_{tt}\thetaにも依らないということがわかります.キリング方程式の形は同じなので,g_{tr}g_{rr}についても同様のことが言えます.


\mu=t\nu=\theta(代表してt)の方程式より得られるのは

\partial_\theta g_{t\theta}\xi^\theta+\partial_\phi g_{t\theta}\xi^\phi+\partial_\theta \xi^\phi g_{t\phi}=0

同様の論法で,\epsilon_zにかかるのは\partial_\phi g_{t\theta}だけであり,これが0なのでg_{t\theta}=0\phiに依らず,

\partial_\theta g_{t\theta}\xi^\theta+\partial_\theta \xi^\phi g_{t\phi}=0

これに対する\epsilon_x\epsilon_yの係数からそれぞれ次の式

\partial_\theta g_{t\theta}=-\csc^2\theta\tan\phi g_{t\phi}
\partial_\theta g_{t\theta}=\csc^2\theta\cot\phi g_{t\phi}

が得られます.これより-\tan\phi g_{t\phi}=\cot\phi g_{t\phi}となりますが,これが恒等的に成り立つためにはg_{t\phi}=0でなければなりません.これをキリング方程式に戻せばg_{t\theta}\thetaにも依らないことがただちにわかります.これはtrに置き換えても同様です.


\mu=t\nu=\phi(代表してt)の方程式より得られるのはg_{t\phi}=0に注意して

\partial_\phi \xi^\theta g_{t\theta}=0

で,\epsilon_xの係数より

\sin\phi g_{t\theta}=0

を得て,恒等的に0となるためにはg_{t\theta}=0となります.


\mu=\theta,\ \phi\nu=\theta,\ \phiのキリング方程式についてはわざわざ調べる必要がありません.もともとこのキリングベクトルは2次元球面のキリングベクトルであり,高次元の座標と無関係な計量成分であるのでS^2に共形であり,計量はもとの計量からtrにだけ依った関数倍の自由度しかありません.

まとめると球対称時空の計量は

ds^2=-A(t,r)dt^2+B(t,r)dr^2+2C(t,r)dtdr+D(t,r)(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)

とかけます.これ以降は一般的なテキストに従えばよいはずです(以上は最初に仮定される球対称時空の一般形について丁寧に考察してみたということです).座標変換をしてより簡単な形にしてアインシュタイン方程式に代入していけばシュワルツシュルト解を得られます.


バーコフの定理とニュートン重力

バーコフの定理は,重力源が球対称であれば真空領域は静的であるという主張ですが,これはそこまで驚くべき定理ではなくてニュートン重力や電場等のガウスの法則でも成り立っていることです.球対称性があれば,例えば重力源を球で囲んでガウスの法則を考えれば,重力源や電荷が消失したり生成したりしない限り重力場や電場は静的ですよね.ニュートン重力の場合,球殻な重力源の球殻の内側についてはガウスの法則を考えればわかるように重力が働きません.ということは一般相対性理論でも球殻の内側では重力がない,すなわち平坦時空になっているという予想が立ちます.バーコフの定理より,球殻内部であっても真空であるので,シュワルツシュルト外部解となります.そして積分の定数であるMは内側の質量なので(ガウスの法則のように),今の場合はM=0となります.よって,ds^2=-dt^2+dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)とミンコフスキー時空になります.