ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【量子力学】水素原子軌道について

今回は、量子力学量子化学でまず扱われる水素原子について少し考察をします。水素原子は様々な数学的な構造を持っていたり*1量子化学計算の元となるものであったりするのでかなり重要なモデルです。この記事では、s軌道やp軌道というのは実際にどういったものなのかというのを考察していく、基礎の基礎の記事です。おそらく教科書だけではフワフワした感じが残っていると思います。一般的に成り立つことを述べているので、冷静に考えれば慣れている人には当たり前に感じてしまうかと思いますが、量子力学を習うより前に量子化学を習うカリキュラムが多いので、そのようなフワフワした状態の人に向けて書いています。どの記事でもそうですが、「僕の理解」について書いているので間違っている可能性は十分高いです。是非ご指摘ください。


\def\bra#1{\mathinner{\left\langle{#1}\right|}}\def\ket#1{\mathinner{\left|{#1}\right\rangle}}\def\braket#1#2{\mathinner{\left\langle{#1}\middle|#2\right\rangle}}

水素原子軌道のおさらい

 スピンまで考慮すると、水素原子軌道に入っている電子の量子状態は量子数(n,l,m,m_s)で指定できますね。nは主量子数、lは方位量子数、mは磁気量子数、m_sはスピン磁気量子数で、n=1,2,3,\cdots, l=0,1,\cdots,n-1m=-l,-l+1,\cdots,l-1,lm_s=-\frac{1}{2},\frac{1}{2}です。スピンを除くと、縮退度はn^2であり、このうち2l+1分(m=-l,-l+1,\cdots,l-1,l)は軌道角運動量保存[\hat{H},\hat{\boldsymbol L}]=0、残りの分(l=0,1,\cdots,n-1)はルンゲ-レンツベクトル保存[\hat{H},\hat{\boldsymbol A}]=0に起因します。フェルミオンである電子には同一の量子状態はないというのがパウリの排他律です。エネルギー固有値E_n=-\frac{m\alpha^2c^2}{2n^2}(\alphaは微細構造定数)、角運動量の大きさの2乗の固有値\boldsymbol L^2_l=l(l+1)\hbar^2角運動量の成分のうちのひとつの大きさはL_{z,m}=m\hbarです。動径波動関数や球面調和関数は位置の固有ブラとの内積(ペアリング)をとって、R_{n,l}(r)=\braket{r}{n,l}Y_{l,m}(\theta,\phi)=\braket{\theta,\phi}{l,m}で、水素原子軌道波動関数\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)=R_{n,l}(r)Y_{l,m}(\theta,\phi)=\braket{r,\theta,\phi}{n,l,m}なのでした。

 

このように整理していくとフワフワしたままの場合は、「では水素原子の電子の位置を観測したときに結局どのような確率密度のプロットが得られるのか?」「1s軌道や2s軌道、2p_x軌道などのうち、どのような形なのか?」のような疑問が生じると思います。

 

ひたすら固有状態で展開

水素原子のある状態を\ket{\psi}としましょう。そうすると、位置(3次元極座標を選びます)の固有状態で展開をすると、

\ket{\psi}=\displaystyle \int_{r,\theta,\phi}\braket{r,\theta,\phi}{\psi}\ket{r,\theta,\phi}Jdrd\theta d\phi

ただし、\int_{r,\theta,\phi}=\int_0^{2\pi} \int_0^\pi \int_{-\infty}^\infty, J=r^2\sin\thetaです。さらに、この被積分関数となっている軌道波動関数にある\ket{\psi}を既によく調べてある\ket{n,l,m}で展開してみましょう。

\ket{\psi}=\displaystyle \int_{r,\theta,\phi}\bra{r,\theta,\phi}\left(\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\ket{n,l,m}\right)\ket{r,\theta,\phi}Jdrd\theta d\phi

=\displaystyle \int_{r,\theta,\phi}\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\braket{r,\theta,\phi}{n,l,m}\ket{r,\theta,\phi}Jdrd\theta d\phi

=\displaystyle \int_{r,\theta,\phi}\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)\ket{r,\theta,\phi}Jdrd\theta d\phi

ただし\sum_{n,l,m}=\sum_{n=1}^\infty \sum_{l=0}^{n-1} \sum_{m=-l}^lです。これはつまり、\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)が位置(r,\theta,\phi)に電子を観測する確率密度振幅になっています(微小体積Jdrd\theta d\phiに電子を観測する確率振幅)。\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)の意味は散々身についていると思います、改めて、固有状態(n,l,m)にあるときに、電子の位置についての確率振幅すなわち軌道波動関数を表しています(よくある1s2p_{-1}2p_0、などの軌道の図のイメージに動径波動関数を乗じたものをイメージしてください)。次に問題は\braket{n,l,m}{\psi}になってくるかと思います。これは意味としては\ket{\psi}において、固有状態(n,l,m)が得られる確率振幅です。ではこの確率振幅が水素原子の場合にはどのように定量的に表されるのかというと、少なくとも量子力学では決定できません。ただ、構成原理というものを採用します。構成原理とは「電子はエネルギー固有値の低い固有状態になる確率が高い」すなわち、\ket{\psi}nについて単調減少であるとします。これだけでは定量的な予言力がありませんが...。仮に高いエネルギー固有値が高い固有状態にあったとしても、エネルギーを放出し、より低いエネルギー固有値の固有状態に遷移する確率というのは統計力学や場の量子論で計算できるようです*2。ともかく、「固有状態(n,l,m)が得られる確率振幅」に、「固有状態(n,l,m)にあるときに固有状態(r,\theta,\phi)確率密度振幅」を乗じたものを、許される固有状態(n,l,m)全てについて和をとったものが、「固有状態(r,\theta,\phi)確率密度振幅」になっています。当たり前なのですが、これが状態の軌道波動関数\braket{r,\theta,\phi}{\psi}=:\psi(r,\theta,\phi)です。上の式で左から\bra{\psi}をかけてみると、

\displaystyle\braket{r,\theta,\phi}{\psi}=\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)

となりますね。これが水素原子の電子を観測するときに、位置(r,\theta,\phi)に見いだされる確率密度になっています。余談ですが、もし、同時固有状態\ket{n,l,m,r,\theta,\phi}が考えられたのであればここにある「和」は必要ないですよね。今はそうではないので、直感的にあっています。

 

存在確率のおおよそのイメージ

さきほど「構成原理」について述べました、今の場合水素原子であって、電子は一つですから、基底状態n=1や第一励起状態n=2に電子が1つある確率がとても高いという意味です。なので、状態の軌道波動関数おおよそ近似的に

\displaystyle\psi(r,\theta,\phi)=\braket{r,\theta,\phi}{\psi}=\sum_{n,l,m}\braket{n,l,m}{\psi}\psi_{n,l,m}(r,\theta,\phi)

\approx \braket{1,0,0}{\psi}\psi_{1,0,0}(r,\theta,\phi)+\braket{2,0,0}{\psi}\psi_{2,0,0}(r,\theta,\phi)

+\braket{2,1,-1}{\psi}\psi_{2,1,-1}(r,\theta,\phi)+\braket{2,1,0}{\psi}\psi_{2,1,0}(r,\theta,\phi)+\braket{2,1,1}{\psi}\psi_{2,1,1}(r,\theta,\phi)

ぐらいな感じになっているということです。イメージがしやすいように適当に具体的な値を与えます。\braket{1,0,0}{\psi}=0.95, \braket{2,0,0}{\psi}=\braket{2,1,0}{\psi}=\braket{2,1,\pm1}{\psi}=0.1, \sum_{n\geqq 3}\braket{n,l,m}{\psi}=0.1仮にします。

\psi(r,\theta,\phi)\approx 0.95\psi_{1,0,0}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2,0,0}(r,\theta,\phi)

+0.1\psi_{2,1,-1}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2,1,0}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2,1,1}(r,\theta,\phi)

= 0.95\psi_{1s}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2s}(r,\theta,\phi)

+0.1\psi_{2p_{-1}}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2p_0}(r,\theta,\phi)+0.1\psi_{2p_1}(r,\theta,\phi)

=\displaystyle 0.95\frac{1}{\sqrt{\pi}}\left(\frac{1}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}e^{-\frac{r}{a_0}}+0.1\frac{1}{4\sqrt{2\pi}}\left(\frac{1}{a_0}\right)^{\frac{3}{2}}\left(2-\frac{r}{a_0}\right)e^{-\frac{r}{2a_0}}

\displaystyle +0.1\frac{r}{8\sqrt{\pi a_0}}e^{-\frac{r}{2a_0}}\sin\theta e^{i\phi} +0.1\frac{r}{4\sqrt{2\pi a_0}}e^{-\frac{r}{2a_0}}\cos\theta +0.1\frac{r}{8\sqrt{\pi a_0}}e^{-\frac{r}{2a_0}}\sin\theta e^{-i\phi}

です。この\psi(r,\theta,\phi)(ほぼ1s軌道)の大きさの2乗が「水素原子の電子を位置(r,\theta,\phi)で見出す確率密度」なのです。

*1:水素原子の数理といえば、adharaさんの記事 adhara’s blog にとても詳細に書かれています(すごいですね...)。

*2:ここは僕の知識不足なため下手なことは書けません...勉強してまた記事にしたいと思います