ぶちゅり

日々学んだ物理学に関することをメモしていきます。コメントでのご指摘お願いします。

【一般相対性理論】アインシュタイン-ヒルベルト作用のニュートン極限の誤りについて

この記事では、アインシュタイン-ヒルベルト作用のニュートン極限がニュートン重力の作用になっているということを作用レベルで(変分を取る前にという意味です。)確かめることをします。しかし、これによって得られた如何にも正しそうな結果は実は誤りなのです。そのことについても少し解説します。


ランダウ=リフシッツ場の古典論での議論

非相対論的な(ニュートン力学の)点粒子の重力ポテンシャル\phi中のラグランジLは,

L=-mc^2+\frac12mv^2-m\phi

で与えられます。これは、-mc^2\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}\frac{v}{c}\rightarrow 0のときの極限と同じようにするためです。非相対論的な作用関数Sは、

\displaystyle S=\int Ldt=-mc\int\left(c-\frac{v^2}{2c}+\frac{\phi}{c}\right)dt

となり, 表式S=-mc\int dsと比較して、

0\gt ds^2=\left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)(cdt)^2-\left(1+\frac{1{\phi}}{c^2}\right)(vdt)^2

=\displaystyle \left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)(dx^0)^2-\left(1+\frac{1{\phi}}{c^2}\right)\left((dx^1)^2+(dx^2)^2+(dx^3)^2\right)

したがって、

\displaystyle (g_{\mu\nu})={\rm diag}\left(-1-\frac{2{\phi}}{c^2},1+\frac{1{\phi}}{c^2},1+\frac{1{\phi}}{c^2},1+\frac{1{\phi}}{c^2}\right)

となります。ランダウ場の古典論では空間成分についてはO(1)の項までしか求めていないですが、作用を計算する際にはより高いオーダーも必要になるので、O(\frac{1}{c^2})まで求めました。


ニュートン重力とのアナロジー

\displaystyle\int R\sqrt{-g}d^4x=\int G\sqrt{-g}d^4x+\int\partial_\mu (\sqrt{-g}w^\mu)d^4x

\displaystyle G=g^{\mu\nu}(\Gamma^\lambda_{\mu\kappa}\Gamma^\kappa_{\nu\lambda}-\Gamma^\kappa_{\mu\nu}\Gamma^\lambda_{\kappa\lambda})

Gを定義して、もしニュートン極限でG\approx -\frac{2}{c^4}(\nabla\phi)^2となれば、アインシュタイン重力のラグランジアン密度として\frac{c^3}{16\pi G} Rが適切そうだと類推できます。


場の古典論で与えられる計量での計算

上で与えられる計量のもとで、Gを計算すると、 た し か

G=0

となり、(少し昔に計算したので記憶が曖昧ですが、少なくとも不適切な計算結果になったと記憶しています。割と重たい計算なので2回目はやりたくないです(笑)。 ) これで上の計量は不適切だということがわかります。


僕が思った対処法

ランダウと似たような発想で、(固有時間で積分するときのものを\tilde Lとします。)

\displaystyle S:=\int \tilde Ld\tau

=\displaystyle\int\frac{1}{\gamma}(-mc^2-m\phi)dt

=\displaystyle\int Ldt

とすることにより、同じように表式S=-mc\int dsと比較して、

\displaystyle 0\gt ds^2=\frac{\tilde{L}^2}{{\gamma}^2m^2c^2}dt^2

\displaystyle =\frac{1-\frac{v^2}{c^2}}{m^2c^2}(-mc^2-m{\phi})^2dt^2

\displaystyle =\left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)(cdt)^2-\left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)(vdt)^2

\displaystyle =\left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)(dx^0)^2-\left(1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)\left((dx^1)^2+(dx^2)^2+(dx^3)^2\right)

によって、

\displaystyle \therefore (g_{\mu\nu})={\rm diag}\left(-1-\frac{2{\phi}}{c^2},1+\frac{2{\phi}}{c^2},1+\frac{2{\phi}}{c^2},1+\frac{2{\phi}}{c^2}\right)

を得ます。ここで与えられる計量でGを計算すると、

\displaystyle G=-\frac{2}{c^4}(\nabla\phi)^2

と、とりあえず正しい(正しそうな)結果が得られます。

論理の根本的な誤り

上でやってきたことは一見正しそうで、僕も結果があまりにも正しいために正しいと思っていて喜んでいたのですが、Y教授から指摘を受け、誤りに気付くことができました。ニュートン極限のことを、作用レベルではなく、既に知っている(作用の変分をとったあとの)基礎方程式から考えると、アインシュタイン方程式の00成分のニュートン極限としてポアソン方程式が出てくることはよくある計算例として一般相対論のテキストに載っているかと思います。しかし、実はここでやっている作用レベルでのニュートン極限を考えて重力ポテンシャルで変分をとるというのは、原理的にアインシュタイン方程式の00成分の極限を考えていることにはなっていません。なぜなら、空間成分に起因している重力ポテンシャルの項もまとめてしまって、しかも変分をとる変数もごちゃまぜになってしまっているからです。あえて言えば、上の計算を正当化しようとすると、拘束条件

-g_{00}=g_{11}=g_{22}=g_{33}

の下で、\phiで変分を取っていることになります。しかし、さきに述べた「アインシュタイン方程式の00成分のニュートン極限としてポアソン方程式が出てくること」とは明らかに違うことをしていますよね。だから原理レベルで、根本的にこのような論理は誤っていたというわけです。もし、この論理で作用レベルでやりたければ\phiにどの成分に起因するのかラベル付けをしておく必要がありますが、その計算は結局「アインシュタイン方程式の00成分のニュートン極限としてポアソン方程式が出てくること」と殆ど同じになるんですよね。