一般相対論で、アインシュタイン-ヒルベルト作用をで物質場とともに変分をとる*1とより、積分範囲が全時空あるいは積分領域の境界で十分に時空の歪みが減衰して平坦なときはアインシュタイン方程式が得られます。しかし、有限の時空の領域で変分をとると条件だけでは消えない上の積分の境界項が出てきます。この項を今まで見ていなかった物理法則の現れとみるのではなく、この項を打ち消すような項を作用に加えて修正します。つまりアインシュタイン方程式自体は変わりません。その打ち消すための項がギボンズ-ホーキング境界項です。
- この記事での記号
- 超曲面上での単位法線ベクトルと射影テンソル, 誘導計量*4
- 超曲面上でのストークスの定理
- アインシュタイン-ヒルベルト作用の変分
- ギボンズ-ホーキング項とその変分
- アインシュタイン-ヒルベルト作用の修正
- 参考文献
この記事での記号
ローレンツ多様体()の反変(接)ベクトル場全体を、共変ベクトル場(1次微分形式)全体を、階反変階共変テンソル場全体をとします。*2 の基底は、の基底はと表されます。の基底はですね。また例えばある反変ベクトルがと表されていたとき、混乱のないように自体を反変ベクトル場といい、を反変ベクトル場成分といいます。この記事では反変ベクトル場はボールド体で、成分は添え字付きで書くことにします。共変ベクトル場はと書くことにします。階反変階共変テンソル場の場合はと書きます。計算上は基本的に反変ベクトル場ではなく、ある基底での成分で書かれることが多いです。*3 そして、の計量テンソル場をとします(と書くべきですが、計量テンソル場が2階共変テンソル場であることは当たり前なので省略して書きません)。逆計量テンソル場をとし, ある基底での計量テンソル場の表現行列の行列式をと書きます。はを線形写像としてみたときのその基底での表現行列です。
超曲面上での単位法線ベクトルと射影テンソル, 誘導計量*4
超曲面上の単位法線反変ベクトル場成分をとします。単位ベクトル場成分なので、です。当然ながら時間的なはで空間的なはです。このあるいはと直交する方向への射影をする写像としての役割を果たす2階混合テンソル場はへの射影テンソル場といいます。これをとして、
と表されます。実際にこれが射影としてはらたいているか確認してみましょう。をと直交する方向へ射影するとします。(もう一つの射影があって、それはをと直交する方向へ射影します。をという写像かという写像として使うかの選択ができるので2種類あります。)直交するという条件からが成立していれば良さそうですね。左辺を計算してみます。
確かに直交しています。これで(反変/共変)ベクトル場を上に射影する写像ができたということになります。
そして、 を上の誘導計量テンソル場といいます(たぶんローカルな定義だと思います)。(は番目の反変ベクトル場と番目の共変ベクトル場のトレースをとるという縮約写像です。) 上の誘導計量は上の反変ベクトル場を超曲面上へ射影し、計量します。誘導計量成分は
です。上の誘導逆計量テンソル場成分は,, となります。超曲面上に座標()を貼り付けることにより、上の計量を誘導することができます。これを上の誘導計量テンソル場といいます。この逆誘導計量テンソル場も同様に考えられて、です。
上の計量、上の誘導計量、上の誘導計量には次の関係があることが簡単な計算で確かめることができます。
また、 ,とします。
超曲面上でのストークスの定理
に対して、形式はと定義されます。はレビ-チビタ記号で、です。そうすると、単位法線反変ベクトル場がであるような超曲面上の面積要素はと定義されます。の体積要素はですね。そうするとストークスの定理より次のように書かれることになります。(反変ベクトル場についてストークスの定理を適用するとします。)
アインシュタイン-ヒルベルト作用の変分
境界項を落とさずにを計算してみましょう。これらの具体的な計算はイチから説明すると大変なので、一般相対論の標準的なテキストを参照してください。(この計算について今後記事にするつもりはあります。) 4次元時空を考え、とします。
なので、
となりますね。この第二項の境界項が問題なわけです。普通は、境界条件と無限遠でこの境界項が消えるという要請をしていたのです。しかし、いまはそのような要請が使えません。境界条件からはに比例した項が落とせません。落とせる項は上の変化への射影だけですね。上での変化はないのですから。さて、第二項(境界項)は次のように書けます。
ギボンズ-ホーキング項とその変分
変分をとったときに、上の積分で表される項とちょうど打ち消すような項を作用に加えなければなりません。それがギボンズ-ホーキング項です。
,
です。これは外部曲率という幾何学的なものから考察はできるですが、ここではこれを加えることでアインシュタイン方程式が導かれることを確かめるということだけをします。(僕自身が外部曲率の理解をしていないというのもあります。)ではを計算していきましょう。まず計算の本体となるのは、なので、とですね。まず、誘導計量成分は超曲面上で固定、すなわちという要請をします。この要請は、時空の超曲面上での変化をさせないという要請になっています。各変分は、
となります。次にを計算します。
となります。したがって、
となります。
アインシュタイン-ヒルベルト作用の修正
アインシュタイン-ヒルベルト作用にギボンズ-ホーキング作用を加えて修正をすると、変分原理から正しくアインシュタイン方程式が導出されます。
下から二行目の第二項は境界条件上でから落とすことができます。そして、最後の式に対して変分原理を適用するとアインシュタイン方程式がでてきてます。
参考文献
福間将文酒谷雄峰 著, (2014), 「重力とエントロピー 重力の熱力学的性質を理解するために」, サイエンス社, ISSN 03868257
*1:このときに変化させているというのは時空という多様体そのものを変化させています。物理的には時空を歪めているということになります。一般相対論として実現される正しい時空の歪み方を探っているのですね。時空を歪ませずに座標変換のみで変化を与えることも考えられますが、これは方程式を探るのではなく一般相対性原理から導かれる保存則を探っています。一般相対論におけるネーターの定理です。この区別は解析力学でいうと、「運動方程式を決定するために、解をずらして力学として実現される解を探るための変分」と、「その運動方程式が見つかった上で、対称性を利用して保存量を探るための変分」に対応します。個人的にはこの区別がつくことは基礎的で重要であり、また高度なことだと思います。混同しないように気を付けましょう。
*2:小話ですが、このやの階数というのは線形写像としての概念である階数(rank)とは違って、テンソルの次数にあたる階数(order)です。例えば「2階テンソルの表現行列の階数」といったときには、必ずしもそれは2であるとは限りません。ややこしいですね。
*3:多くの物理の本では成分を反変ベクトルといったりすることが多いので独学の場合では混乱が起き得ます。僕も最初は混乱していました。
*4:時間的あるいは空間的超曲面のみを考えるとします。光的超曲面は直交の扱いが面倒くさいので割愛します。追記する可能性はあります。
*5:ここの詳細な計算は後日追記します。